いつまでもブラームスの世界に浸っていたいと思うのです
2015年にデビュー40周年を迎え、益々活躍めざましい人気ヴァイオリニスト、千住真理子。「今はブラームスがたまらなく弾きたくなる時」という彼女が最新アルバム『ドラマティック・ブラームス』と同名のコンサートを7月に開く。ピアノはアルバムと同じ丸山滋が務める。
「10代の頃はがっしりとした、とても逞しい作曲家というイメージがあって、それらしく力強く弾かなければと思っていました。でも大人になるにつれてブラームスの作品が持っている、繊細でロマンティックな部分に強く惹かれるようになったのです。今では、これほどまでに悩ましい人の心に寄り添い、慰め、共に涙して温めてくれる音楽は他にないかもしれないとさえ思えます」
コンサートはヴァイオリン・ソナタの第1番と第3番を主軸にしたプログラム(CDでは全3作品を完全収録)。
「それぞれにドラマがあって、第1番はやはり『雨の歌』という名前の通り、しっとりと演奏したいですね。第2番はまるで魅力的な女性を思わせるようなソナタだから、キュートな雰囲気を大切に。第3番は悲劇、それも既に諦めの境地から物語が始まり、でも次第に気持ちが昂ぶっていくのが感じられます。3作品とも弾き込むほどに味が出て、皮を剥ぐように進んだずっと奥に本質が隠れているのがわかるのですが、それを直接的には表現せず、じんわりと滲ませるような演奏を目指しました」
ハンガリー舞曲ではストラディヴァリウスの名器「デュランティ」もまたひと味違う側面を見せるはず。
「アルバムでもとりあげた、地を這うように土臭くてミステリアスな第1番が特に好きです。“口の中に手を突っ込んで何かを掴み出したくなる”ような、ちょっとグロテスクでドロドロしたところがいいと思います(笑)」
全体の曲順にもこだわり、他の作曲家による名旋律も配置。特にブラームスと生涯にわたって親交を続けたクララ・シューマンによる『3つのロマンス』の第2曲は、彼女が愛する歌曲『雨の歌』の旋律を引用して第1番ソナタを作曲し、思慕の念を表現したとされるブラームスの想いに呼応させるかのような心憎い演出だ。
「バッハやモーツァルトを前菜に、先ず『雨の歌』をじっくり味わっていただいて、休憩を挟んでもうひとつのメインディッシュである第3番ソナタを。そのままクララのロマンスに繋がり、興奮冷めやらぬうちにハンガリー舞曲第1番、最後はスカッとモンティのチャルダッシュで仕上げた“コースメニュー”。平日午後の公演なので、ディナーや終電の時間を気にせず、ブラームスの深い森にどっぷりと浸かっていただけたら嬉しいです」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ 2017年7月号から)
アフタヌーン・コンサート・シリーズ 2017-2018前期
千住真理子 ドラマティック・ブラームス
7/14(金)13:30 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp/
CD
『ドラマティック・ブラームス/千住真理子』
ユニバーサルミュージック
UCCY-1079
¥3000+税