シャリーノの音楽は私にとって魔法のようなものです
若林かをりが、2015年から近江楽堂で現代の無伴奏フルート作品を集めたリサイタル・シリーズに取り組んでいる。今年は、生誕70年を迎えるイタリアの作曲家サルヴァトーレ・シャリーノのフルート独奏のための作品集 第一集・第二集 (全12曲)を、4月と10月の2回に分けて演奏する。
若林は京都生まれ。東京芸術大学卒業後、ストラスブール音楽院でフルートをマリオ・カーロリに師事。ルガーノ音楽院の修士課程では「日本の間(ま)がヨーロッパの現代音楽にもたらした影響」を論文にまとめた。現在は関西を拠点に演奏活動を行う。
シャリーノの作品は、若林にとって特別な意味がある。
「04年、トッパンホールでアーヴィン・アルディッティが演奏したシャリーノのヴァイオリン独奏のための〈6つのカプリッチョ〉を聴いたのですが、『ヴァイオリンでこんな音が出せるんだ!』って衝撃を受けました。その後、05年8月、現代音楽セミナー&フェスティバル“秋吉台の夏”で、カーロリ先生の鮮烈なシャリーノ作品のパフォーマンスを聴いて、フルートでこんな音が出るのかと、私のなかの現代音楽のイメージが一新されたのです。それが、カーロリ先生のもとで現代作品の演奏技術を学びたいと思うきっかけでした。
先生はシャリーノの後期作品の監修(フルートの技巧上のアドバイス)をされていますので、私はシャリーノ作品が吹けるようになるためにカーロリ先生に師事したようなものですね(笑)。シャリーノには11年、東京オペラシティでの『コンポージアム』でお会いしました」
シリーズはこれまで土曜の11時から1時間程度だったが、今年は2時間弱の夜の公演も行う。
「留学中、海外では土日の午前中にコンサートを聴いて、ランチをしたあと遊びに行く、というスタイルをよく目にしました。日本でも、東京だったらこのスタイルは良いんじゃないかな? と思ったんです。ただシャリーノ作品集は1時間ずつでは収まらないので2時間公演も行うことにしました」
シャリーノの作品で現代音楽に開眼し、楽しいと思うようになった。
「シャリーノの作品を聴いたとき、出てくる音にはたまげましたが、それでもちゃんと音楽になっている。それは驚きと新しい音楽の発見でした。特殊奏法が多用されているので普通のフルートのきれいな音はほとんどありません(笑)。シャリーノの音楽は私にとって魔法のようなものです。今度のリサイタルには、フルートの音に驚きに来てください」
若林のシャリーノ作品展は、フルートをよく知っているはずの人も、フルートがどういう楽器なのかを再認識する貴重な機会となるであろう。
取材・文:山田治生
(ぶらあぼ 2017年4月号から)
◆10月公演《vol.5》のプログラムから、「歓喜の歌」
若林かをりフルーティッシモ!-フルートソロの可能性-
〜サルヴァトーレ・シャリーノ生誕70年を讃えて〜
《vol.4》4/14(金)19:00
《vol.5》10/21(土)11:00
近江楽堂(東京オペラシティ3F)
問:スリーシェルズ070-5464-5060
http://basarachaosmos.wixsite.com/kaoriwakabayashi/