井上喜惟(指揮)

ベルティーニが育てた名門エルサレム響と初共演

 ジャパン・シンフォニア及びマーラー祝祭オーケストラの音楽監督を務め、モンゴル国立フィルやアルメニア国立フィルなどでもしばしば指揮を執る井上喜惟が、11月に来日するエルサレム交響楽団と初共演する。同響はかつてガリー・ベルティーニも首席指揮者を務めた名門楽団。ベルティーニの弟子である井上は今回の演奏会をとても楽しみにしている。
「私は1979年からウィーンで勉強していたのですが、当時、ベルティーニはウィーン交響楽団とマーラー・サイクルをやっていて、80年にその第6番を聴いた時にその演奏が素晴らしく、彼を楽屋に訪ねました。彼のもとで勉強したいと告げると、『リハーサルはいつ聴きに来てもよいから、(今度、放送響の音楽監督になる)ケルンにおいで』と言ってくれました。それからは内弟子みたいになり、先生の譜面の直しを手伝ったりもしました。ザルツブルクの講習会ではレッスンも受けました。師匠というより義父のような感じですね。
 80年代半ばに、ベルティーニ&エルサレム響のドイツ・ツアーをミュンヘンで聴きました。マーラーの交響曲第5番が衝撃的でした。この曲はベルティーニの指揮で色々なオーケストラで聴きましたが、抜きん出た演奏でした。心の底からえぐられるような。エルサレム響は、イスラエル・フィルと共通する良さがありますが、聖地のオーケストラで、イスラエル・フィルよりヘブライ色が濃いかもしれません。もともと放送オーケストラなので機能的でフレキシブルなところも魅力です」
 11月21日の演奏会は、バーバーの管弦楽のためのエッセイ第2番、チャイコフスキーの幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番という凝ったプログラム。
「バーバーは、イスラエルのオーケストラでユダヤ系作曲家の作品をやりたいと思ったからです。エッセイ第2番はオーケストラの機能美を活かせる曲。第二次世界大戦の頃の暗い響きもします。この曲は、私がブルノ・フィルを振って、デビューしたときの最初の曲でもあります。『フランチェスカ・ダ・リミニ』は大好きな曲。エルサレム響の弦楽器の魅力が伝わると思います。
 チャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番は、滅多に演奏されませんが、スラヴ系の音楽が好きな私が小学生のときから愛聴している作品です。ピアノ独奏の安達朋博さんもチャイコフスキーの第2番が好きで、演奏する機会を探していました。彼のことは10年来知っていて、昨年は、ペヤチェヴィッチのピアノ協奏曲の日本初演で共演しました。クロアチアで学んだ彼は日本では滅多にいないタイプのピアニストですので今回も楽しみにしています」
取材・文:山田治生
(ぶらあぼ 2016年11月号から)

エルサレム交響楽団 with 安達朋博
11/21(月)18:30 学習院大学創立百周年記念会館
問:公演事務局(ジャパン・シンフォニア内)0422-45-1585