及川浩治(ピアノ)

デビュー21年目のヴィルトゥオーゾ

©Yuji Hori

©Yuji Hori

 1995年のサントリーホールでの正式デビューから、21年目を迎える及川浩治。節目の年となった昨年は、若き日に研鑽を積んだブルガリアで20数年ぶりのコンチェルト公演を成功させ、今後への意欲を新たにしたという。
 そんな彼が新しいスタートをきるリサイタルのために選んだのは、大好きな小品ばかりを集めた、こだわりの名曲プログラムだ。
「美しさ、感動、切なさ。勇壮な音楽もあれば、不思議な瞬間を持つ音楽もある。ときにはグロテスクすら、そのあと解決を迎えた瞬間に、美しい感動に結び付く。いろいろな表情を持つプログラムなので、その一つひとつの魅力を皆さんと共有できたらと思います」

“一音入魂”の「シャコンヌ」で開始

 客席と感動を共にするため、考えに考えた末の曲順。まず冒頭に演奏するのは、バッハ=ブゾーニの「シャコンヌ」だ。
「演奏会で最初に耳にする音って、とても大切だと思います。静かに始めるのも良いですが、僕の場合は、大好きな『シャコンヌ』を“一音入魂”で弾くことで、テンションの高いところからスタートしたい。それによって、続けて演奏するショパンの『ラルゲット』(ピアノ協奏曲第2番第2楽章)で、片思いの切なさが込められた涙の出るような美しさ、弱音の効果、そしてショパンという作曲家の特徴的な天才ぶりがより際立つと思うのです。そのあとにはリストが続きます。『愛の夢』では、ショパンとの愛の表現方法の違いを感じていただけるのではないかと」
 後半には、リクエストの多いラフマニノフの「鐘」やクライスラー=ラフマニノフの「愛の喜び」などに加え、ドビュッシーやラヴェルといった、及川としては取り上げるのが珍しい作品も並ぶ。
「ドビュッシーの『月の光』は、小さい頃、父が弾いているのを聴いて素敵だと思ったことをよく覚えています。また、ラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』は、あたたかみの中に切なさのある、不思議な魅力にあふれた作品。どちらも大好きなのですが、なぜか人前で弾く機会がほとんどありませんでした。『ラ・ヴァルス』は20代のころよく弾いていた作品で、今回演奏するのは本当に久しぶりです。ライヴだからこその一期一会の演奏で、特別な時間だったと感じていただけるリサイタルにしたいです」

とことん音楽を愛し続ける

 これほど性格の異なる小品を並べて演奏するのは、「僕の場合、条件反射のように作品のキャラクターに極限まで入り込んでしまうので、大変(笑)。でも演奏していて楽しめるプログラム」だと話す。
「一番大切なのは、自分が作品を本当に好きでいるということ。作曲家が特別な啓示を受けて書いた人類の宝であり、愛すべき作品だと感じていれば、その気持ちは聴く人に伝わると思います。僕は『B型・みずがめ座』なので、気分屋だし自己暗示型。その時に好きなものが大好きで、自分が好きなものはみんなも好きだと思ってる(笑)。でもそんな風に、少年の頃から今も変わらずに音楽が大好きであり続けることが、音楽を深める原動力になっているんです。年相応に、ゆとりや包容力のある音楽も目指していきたいと思っていますけれどね。次の10年に限らず、最後までとことん音楽を愛し続けたいです」
 一つひとつの作品について、この部分がたまらなく素敵なのだと熱く語る及川の表情からは、音楽への強い想いがあふれだすようだった。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ 2016年9月号から)

9/17(土)14:00 サントリーホール
問:チケットスペース03-3234-9999
http://www.ints.co.jp

他公演
9/3(土)静岡/青嶋ホール(054-253-6480)、9/10(土)青森/リンクモア平安閣市民ホール(017-773-7300)、10/15(土)大阪/ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)、10/27(木)石川/白山市松任学習センター(076-274-5411)、12/18(日)札幌コンサートホールKitara(オフィス・ワン011-612-8696)、2017.2/19(日)宮城/東北大学百周年記念会館 川内萩ホール(TBC事業部022-227-2715)