●ベルリオーズの「ファウストの劫罰」について
——ベルリオーズのファウスト役は、多く歌っているレパートリーでしょうか。
スパイアーズ(以下S):おそらく、僕は今活躍中のテノールの中で、いちばん多くファウスト役を歌っているのではないでしょうか。最初に歌ったのは2012年、ベルギーのオペラ・ハウスで有名な映画監督テリー・ギリアムのファンタジー豊かなプロダクションでした。その後、ブラジル、フランス、ポーランド、アメリカで歌っており、さらに2017年8月にはエディンバラ・フェスティヴァルとフランスのベルリオーズ音楽祭、12月にはベルリンで再びギリアム演出に出演します。
——この作品で特に思い出深い舞台はありますか?
S:数々の思い出がありますが、三つ挙げたいと思います。
1)舞台の上10メートルのところでかぎ十字にかけられて逆さに吊り下げられたこと[写真下]。
2)ベルリオーズの生地ラ・コート・サンタンドレに招かれてこの作品を歌ったこと。
3)妻が妊娠8ヶ月の時に私と一緒に出演し、天使の声の役を歌ったこと。
——この役を歌う上で特に難しい点はありますか?
S:ベルリオーズは歌手に対して、音域、感情表現、技巧の面できわめて高い要求を行なっているので、彼の作品を歌う上ではさまざまな難しさが伴います。ベルリオーズ作品の登場人物はドラマを作るべく書かれており、技術的に大変なところもありますが、彼はすべてを巧みに計算した上で作曲しているので、自分の声をしっかり把握していれば大丈夫です。
——スパイヤーズさんはこの作品のファウスト像をどのように捉えていらっしゃいますか?ファウストという人物に共感できますか?
S:もちろんファウストには共感できます。なぜなら、彼は私たちと同じで、たいへん複雑な世の中で自分の運命をコントロールしようとしているからです。彼は神になりたいと願いながら、星を動かそうとして失敗してしまうのです。
——作品の中で特に好きな箇所はありますか?
S:この大傑作の中で一つだけ挙げるのは難しいですが、毎回歌うたびに胸に迫る箇所があります。それは第2部で合唱の祈りの歌に対し、ファウストが「純粋な喜びは思いまどい、夢見ながら緑の草原を抜け (La pure jouissance / D’errer et de r—ver / Par les vertes prairies)と歌う箇所なのですが、そこを歌う時に私の生まれ故郷であるミズーリ州マンスフィールドに思いを馳せます。というのもこの町は、日本でも有名な「大草原の小さな家(Little House on the Prairie)」の作者であるローラ・インガルス・ワイルダーが長年住んだ町で、prairieという言葉で故郷を思い出すのです。
取材/文=後藤菜穂子
●インタビュー〜マイケル・スパイアーズ(ファウスト役)その2に続く>>
●東京交響楽団
指揮:ユベール・スダーン
ファウスト:マイケル・スパイアーズ
メフィストフェレス:ミハイル・ペトレンコ
マルグリート:ソフィー・コッシュ ブランデル:北川辰彦
合唱:東響コーラス、東京少年少女合唱隊
第644回 定期演奏会
9/24(土) 18:00 サントリーホール
S¥10,000 A¥8,000 B¥6,000 C売切
第57回 川崎定期演奏会
9/25(日) 14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
S¥10,000 A¥8,000 B¥5,000 C¥4,000
問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
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