サックス2本のみで紡ぐ多面的なサウンド
近年、若手サックス奏者の活躍が目覚ましい。彼らの多くはソロやクァルテットを中心に活躍中だが、今回ご紹介するのは“デュオ”という珍しい形のCD。サクソフォーン・クァルテット・アテナのテナー奏者・冨岡祐子と、ブルーオーロラ・サクソフォン・カルテットのアルト奏者・田中拓也の初共演盤だ。
冨岡によると、当盤は、東京芸大の後輩で、同じ平野公崇の門下でもある田中にオファーして実現。だが、共演を切望していたのは、どうやら田中の方だったようだ。
「僕は学生時代から冨岡さんの大ファンで、公演後に楽屋に行って、いつか共演したいとお願いしたことがあるんです。その後もお会いする度に同じ話を繰り返して、今回ようやくその夢が叶いました(笑)。ただ、僕も冨岡さんも、普段のクァルテットでは内声担当なので、メロディにイニシアティブを持つことは稀。その意味で、今回はお互いの責任が格段に増して大変でした」(田中)
そんな二人による当盤の収録曲は、民族色の豊かな作品が中心になっている。
「サックス・デュオの録音は、バロックの編曲や、近現代のオリジナルが一般的なので、それとは異なる第3の道を目指しました。そこで、ピアソラやバルトークの民族的な作品を中心に置いて、その間に近現代のオリジナル作品を散りばめる構成にしたのです」(冨岡)
では、作品の中核をなす「ブエノスアイレスの夏」などピアソラによる4曲と、バルトーク「44のデュオより」(18曲を抜粋)の聴きどころは。
「甘美な旋律の裏側に悲しみや諦観を巧みに滲ませるピアソラの作風は、多彩で芯のある表現に長けたサックスにとてもふさわしいと思います。バルトークの二重奏曲はヴァイオリンが原曲ですが、今回は民族的な音色も出せるソプラノ2本で演奏。また、この曲集は初級者用で、難易度が徐々に増していく構成になっているので、それとは異なるコンサートピース的な構成に組み替えました」(田中)
一方、近現代のオリジナル作品も傑作揃い。その魅力を冨岡は次のように語る。
「表題作でもあるロバ『アルス』は、アフリカ出身の作曲者ならではの大胆奔放な構成が特色。ロッセ『キシミックス』は、上声と下声の目まぐるしい交替が実に効果的。微分音が多用されたグバイドゥーリナのソナタは、今回最も苦労した難曲ですが、その独特の“うねり”は神々しくスピリチュアル的で、田中さんはすっかり虜になっていました(笑)」
11月にはライヴでの共演(11/11 代々木上原・けやきホール)も実現する2人。ますますの活躍が期待される。
取材・文:渡辺謙太郎
(ぶらあぼ 2016年8月号から)
CD
『アルス〜サクソフォン・デュオ作品集〜』
マイスター・ミュージック
MM-3085 ¥3000
7/25(月)発売