浜田理恵(ソプラノ)

“ことば”と音楽でつづるルイス・キャロルの世界

 東京文化会館『プラチナ・シリーズ』に登場するソプラノの浜田理恵。注目は三ツ石潤司の新作、音楽遊戯「アリスの国の不思議」だ。もちろんルイス・キャロル『不思議の国のアリス』による音楽作品だが、あくまで“オペラ”ではなく、“音楽遊戯”という。
「オペラのような、です(笑)。舞台や演出も大掛かりではありませんので、19世紀的ないわゆるオペラをイメージしてほしくないのです。でもそんなことにこだわっているわけではありません。とにかく楽しんで聴いていただければ」
 『不思議の国のアリス』はメルヘンとして捉えられがちだが、言葉遊びを多用し、古い教訓歌のパロディを織り交ぜながら、論理のはき違いによる不条理を主題とする、19世紀の作品ながら新しい文学だった。今回の新作が過去のさまざまな時代・スタイルの音楽作品のパロディを中心に組み立てられているのは、その側面を音楽に応用した形と言える。
 登場する歌い手はソプラノとバリトンの2人。原作のいくつかのエピソードが英語で歌われ、それを日本語の語りで繋いでゆく。
「元の作品のスタイルをきちんと歌えてこそパロディ。それができないと、ただ滑稽なだけです。共演するバリトンの晴雅彦さんは根が真面目なうえに面白いことができる人なので、その点も信頼できます。私はほぼアリス役ですが、彼はチェシャ猫や公爵夫人など、いろんな役を演じるので大変なのです」
 浜田と三ツ石の間で新作の構想が具体的になったのは1年半ほど前。遠慮なく意見をぶつけ合いながら作り上げてきた。
「演奏家が自分から新しいものを創造する機会はなかなかありません。それで一生終わっていいのかと悩んでいた時、三ツ石さんと意気投合したのです。彼は作曲科出身ですが、いわゆる現代音楽のあり方に納得できず、作曲家としての自分を主張してこなかった。現代音楽は、聴衆との共通項を無視しているようなところがありますよね。では、自分たちでお客さまとの接点を意識しつつ、何か新しいものを創ろうと決めたのです。ですから、実は演じる側は結構大変なのですが、聴いて難解なものにはなりません。公演後にはお客様がメロディを口ずさみながら帰れるぐらいの作品になればいいですね」
 プログラム前半にはプーランク、サティの歌曲。フランス音楽を得意とする浜田らしいが、そこにはプーランク「ハートの女王」など、『アリス』と世界観を共有するような曲も並ぶ。「前菜というか、予告編です(笑)」。こういう“伏線”は素敵だ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年7月号から)

Music Program TOKYO プラチナ・シリーズ2
浜田理恵 〜言葉は歌い、音楽は語る〜
9/22(木・祝)16:00 東京文化会館(小)
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650
http://www.t-bunka.jp