指揮活動を引退した井上道義だが、まだ何も終わっていない。引退前に残した録音が、続々と発表されている。何よりライフワークであるショスタコーヴィチの2度目の交響曲全集がまだ「継続中」だ。「新作」は第14番「死者の歌」。晩年の作曲家のペシミズムの極みのような11楽章、起用されたのはオーケストラ・アンサンブル金沢。優秀なアンサンブルを煽り立てることなくじっくり鳴らし歌わせ、打楽器が鮮烈に切り込む。その上で2人の歌手が強い表現力で死に憑りつかれたテクストを歌う。不条理な死が再び世界を覆い尽くそうという現在、それはあまりにアクチュアルなメッセージとして響く。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2026年4月号より)
【information】
SACD『ショスタコーヴィチ:交響曲第14番/井上道義&OEK』
ショスタコーヴィチ:交響曲第14番
井上道義(指揮)
オーケストラ・アンサンブル金沢
ナデージダ・パヴロヴァ(ソプラノ)
アレクセイ・ティホミーロフ(バス)
収録:2024年11月、石川県立音楽堂(ライブ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00914 ¥3850(税込)

矢澤孝樹 Takaki Yazawa
1969年山梨県塩山市(現・甲州市)生。慶應義塾大学文学部卒。水戸芸術館音楽部門主任学芸員を経て現在ニューロン製菓(株)及び(株)アンデ代表取締役社長。並行して音楽評論活動を行い、『レコード芸術online』『音楽の友』『モーストリークラシック』『ぶらあぼ』『CDジャーナル』にレギュラー執筆。朝日新聞クラシックCD評選者および執筆者。CD及び演奏会解説多数。著書に『マタイ受難曲』(音楽之友社)。ほか共著多数。


