田所光之マルセルがリスト「超絶技巧練習曲全曲」でみせる新境地

©Shigeto Imura

 独特の感性とこだわりを持って作品を探究し、いつも新しい音楽に出会わせてくれる、田所光之マルセル。日本人の父とフランス人の母のもと日本で生まれ育ち、18歳で渡仏。名教師として知られるレナ・シェレシェフスカヤのもと学んで音楽の礎を固めた。日本では、セミファイナリストとなり審査員長特別賞を受賞した2022年のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールの配信を聴いたことをきっかけに注目した方も多いかもしれない。近年はオーケストラ公演のソリストとしても引く手あまたで、ますます活躍の場を広げる。

 リサイタルではいつもコンセプトをもってまとめたユニークなプログラムを用意する彼が、今回王子ホールで演奏するのは、リストを中心とした内容。

 まずはリストの「愛の夢」だが、有名な第3番だけでなく全3曲を「3つのノクターン」の形で届け、リストが「超絶技巧練習曲」を献呈した、少年時代の師であるツェルニーのノクターンを続ける。

 そして後半はその「超絶技巧練習曲」全曲を演奏するという趣向。昨年、19世紀ドイツの作曲家ヘンゼルトのエチュードという知られざる難曲を全曲録音した田所は、作品を探る中で改めてエチュードの世界の魅力を深掘りしたくなったようだ。みずみずしい音を持ち、パワフルと繊細、両方のタッチを巧みに操り、かつその場で生まれた感性で音楽を創る彼による「超絶技巧練習曲」。密度が濃くドラマティックな一夜を期待できそう。

文:高坂はる香

(ぶらあぼ2026年5月号より)

transit Vol.22 田所光之マルセル 〜リスト:超絶技巧練習曲全曲〜 
2026.6/19(金)19:00 王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990 
https://www.ojihall.jp


高坂はる香 Haruka Kosaka

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/