
たった一人で大ホールの舞台に立つ。そんな公演を実現できるチェリストはひと握りだが、2年前にそれを経験した上野通明が、5月24日にサントリーホール大ホールで2度目の無伴奏公演を実現する。今回奏でるのは、没後50年を迎えた英国の大作曲家、ブリテンの無伴奏チェロ組曲全3曲。
「2024年のサントリーホール公演と同じ5月24日、再びあのステージに立てることが夢のようで、運命的なものも感じます。選曲の理由は、今年はブリテン・イヤーですし、独特の世界観があり、どこか孤独な彼の音楽が以前から好きだったからです。その孤独感が大きな空間にチェロ1本でぽつんと立つイメージと重なります。ブリテンの音楽には繊細さや不安、緊張感がありますが、壮大でシンフォニックな響きも出てくるので、残響が豊かで解き放てる感覚のある、サントリーホールにふさわしいのではとも考えました」
ブリテンの無伴奏チェロ組曲を「とてもパーソナルなもの」と捉えている。
「この3曲には“聴きやすさ”、“聴き映え”で作曲したところがほとんどありません。彼の心のあり方、精神の奥底をそのまま出していて、飾りがない。当初はバッハの組曲と同じ6曲構想だったそうで、完成した3曲に調性は明記されていませんが、中心となる音は第1番はソ、第2番はレ、第3番はドと、バッハの第1番から第3番の調と同じで、強い意識が感じられます」
各曲について、第1組曲は「3曲の中では比較的親しみやすい。ヴィルトゥオージックで、チェロの可能性を最大限に引き出しています」。第2組曲は「3曲の中で最も“聴き映えがしない”音楽ですが、だからこそより奥深い内面が見えてくる。最後はシャコンヌで、バッハへの意識をブリテンの語法で構築しているのが興味深いです」。第3組曲は「楽章は多いけれど、削ぎ落とされた作りで無駄がない。献呈したロストロポーヴィチに敬意を表してロシア性が強調され、ロシア語の表記もあります。最後に現れる『コンタキオン』(死者のための聖歌)が好きで、ほとんどレクイエムのよう。最も感極まるクライマックスの一つだと思います」と語る。
前回の同ホール公演は現代邦人作品集、今回はブリテン。それ以外の場でも上野の活動には20世紀や現代作品が目立つ。
「激しい時代を生きた作曲家たちの人生は波乱万丈で、音楽にメッセージ性が含まれていることが魅力的です。感性の面でも、頭で考えるより自然に心が動かされることが多い。むしろ素直に音にするだけで、彼らの裸に近い感情がダイレクトに伝わる感じがして、取り組むのが面白いです」
2年前の同ホール無伴奏公演を「大きなチャレンジでかなり緊張しましたが、大勢の方が集中して聴いてくださり、本当にうれしく、達成感にもつながりました。サントリーホールは豊かな響きに助けられながら、音楽に没入できる感覚があります」と振り返った上野。「特別に感じます」という場でのたった一人の新たな挑戦、大いに期待したい。
取材・文:林 昌英
(ぶらあぼ2026年3月号より)
上野通明 ブリテン無伴奏チェロ組曲全曲演奏会~Monologue~
サントリーホール開館40周年記念参加公演
2026.5/24(⽇)14:00 サントリーホール
問:カジモト・イープラス050-3185-6728
https://www.kajimotomusic.com

林 昌英 Masahide Hayashi
出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。


