ミヒャエル・ザンデルリンク(指揮)

チャイコフスキーの神髄は終わることのない“歌”にあるのです

©Marco Borggreve
©Marco Borggreve

12月の都響定期に客演

 ミヒャエル・ザンデルリンクが今年12月に東京都交響楽団に客演し、ロシア音楽プログラムを指揮する。メインはチャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」。
 去る7月にドレスデン・フィルとともに来日した彼は、ベートーヴェン・プログラムでピリオド的(古楽的)なアプローチを採り入れた見事な演奏を披露した。
「私がドレスデン・フィルの首席指揮者になったとき、私に課せられた任務は、彼らの伝統的なサウンドを大切に守ると同時に、作品によって私が正しいと思い、美しいと感じるピリオド奏法をオーケストラに身につけさせるということだと思いました。今のドイツでは、モダン・アプローチとピリオド・アプローチの両方を響きとして実現することが主流となっています。ドレスデン・フィルは作品に合った響きを高い水準で実現できるオーケストラになりました」

チャイコフスキーへのアプローチ

都響でのチャイコフスキーには、どのようなアプローチを試みるのだろうか?
「チャイコフスキーに関してはピリオド的な奏法が必要とは思いません。ただし、長いフレージングやアーティキュレーションやバランスに気をつけ、歌うような美しい響きを心掛けます。音楽には2つのタイプがあると思います。ひとつは語られる音楽。作品にメッセージ性やレトリックがあります。ベートーヴェンやハイドンの音楽はこちらに入ります。もうひとつは歌われる音楽。終わることなく歌い続けられる音楽です。チャイコフスキーはこちらに属すると思います。私は、交響曲第1番のいわゆる物語性のないところに魅力を感じます。葛藤のない美しさといいましょうか。夜の世界から光の世界へ、春に向かう過程を描いている作品といえるでしょう」
 前半には、ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番を取り上げる。独奏を務めるのは、チェロ出身のザンデルリンクがマスタークラスで教えたこともある新鋭アレクセイ・スタドレル。
「胸を締め付けられるような深い作品です。ショスタコーヴィチはしばしば音楽の裏側に暗号を付しました。この協奏曲の第2楽章の冒頭にはドヴォルザークの『新世界交響曲』の冒頭のメロディが入っています。彼は、新世界へ行きたい、外へ出て行きたいという叫びをこの協奏曲に託したのです」

20世紀最大の作曲家

 ミヒャエル・ザンデルリンクの父は、往年の名指揮者クルト・ザンデルリンクである。父はショスタコーヴィチと親しかった。
「私の子供の頃、東ドイツでは、ソビエト連邦文化が支配的で、早くからショスタコーヴィチの音楽に親しんでいました。父がショスタコーヴィチと懇意であったので、近い者しか知りえない話も私は聞きました。ショスタコーヴィチは20世紀最大の作曲家だと思います。彼は自分の感情を解放するために、また、生きるための必然性から、作品を書いていました。音楽を書かずにいられなかったという意味では、シューベルトやマーラーと共通します」
 この度、彼は、ドレスデン・フィルとともにショスタコーヴィチとベートーヴェンの交響曲シリーズの録音を開始した。こちらも楽しみだ。
取材・文:山田治生

東京都交響楽団 第798回 定期演奏会 Aシリーズ
12/10(木)19:00 東京文化会館
問:都響ガイド03-3822-0727
http://www.tmso.or.jp