魅惑の歌姫が魅せる人間味あふれるバッハの音楽
「バッハ」と「オペラ」。およそ関係がないように思われるこの両者が、かぎりなく接近しているジャンルがある。「世俗カンタータ」と呼ばれる分野がそれ。コーヒー好きの娘とそれをやめさせようとする父親のコミカルなやりとりを描いた「コーヒー・カンタータ」BWV211はその代表格だが、「農民カンタータ」BWV212も傑作だ。新しい殿様の着任祝いに部下の徴税官が詞を書いて献呈したこの作品は、村の男女が殿様夫妻の徳を褒め称えつつ戯れ合うというユーモラスな内容で、方言丸出しのセリフや流行りの俗謡、弾むような舞曲のリズムがちりばめられた楽しい1曲。峻厳な「マタイ受難曲」と同じ作者の作品とは信じがたいが、なんと作詞者の徴税官ピカンダーは、「マタイ」の詞も書いている。バッハとピカンダーのほくそ笑む顔が目に見えるようだ。
今回のバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)による公演は、世界を席巻する歌姫、モイツァ・エルトマンをゲストに迎える豪華版。ドイツが生んだクール・ビューティのソプラノは、超難役の《ルル》からバッハまで歌いこなす実力派スターでもある。透明感をたたえたなかにも温かみがにじむ声は、人間バッハの素顔が垣間見える「農民カンタータ」にはうってつけ。BCJでおなじみのこちらも実力派若手バス、ドミニク・ヴェルナーと、丁々発止のやりとりを楽しませてくれることだろう。イタリア語による2曲の独唱カンタータでは、それぞれの美声をじっくり味わえるのも魅力的だ。
文:加藤浩子
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年9月号から)
第235回 神戸松蔭チャペルコンサート
9/19(土)15:00 神戸松蔭女子学院大学チャペル
第114回 定期演奏会
9/26(土)15:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:バッハ・コレギウム・ジャパン チケットセンター03-5301-0950
http://bach.co.jp
他公演
9/20(日)三井住友海上しらかわホール(BCJチケットセンター03-5301-0950)