
現代音楽を中心に、ジャンルを超えた音楽に取り組んできたアンサンブル・ノマド。12月28日に東京オペラシティ リサイタルホールで開催される第86回定期演奏会は、「振り返るまなざし」と題し、ナチス・ドイツから「退廃音楽」の烙印を押されアウシュヴィッツ強制収容所で命を奪われたヴィクトル・ウルマンの作品を演奏する。
ユダヤ人だったウルマンは1942年にナチスに捕えられると、テレジン収容所に収監。ここでは国際社会に向けたプロパガンダのために文化活動が行われており、ウルマンはピアノ・ソナタや室内楽、オペラなどを作曲・初演した。今回演奏されるのは、そんなテレジンで生まれた「弦楽四重奏曲第3番」と歌劇《アトランティスの皇帝》。どちらも、死と隣り合わせの環境にあっても自己のアイデンティティを守り抜こうとした作曲家の強い意志を感じさせる。オペラには須藤慎吾、小森輝彦ら錚々たる顔ぶれが出演。戦争や排外主義が跋扈するこの時代だからこそ、改めてウルマンの音楽が言おうとしていることを、この耳で聴きとりたい。
文:室田尚子
(ぶらあぼ2025年12月号より)
アンサンブル・ノマド 第86回定期演奏会
“まなざし、あるいは差異の煌めき” Vol.3:振り返るまなざし
2025.12/28(日)14:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:キーノート0422-44-1165
https://www.ensemble-nomad.com

室田尚子 Naoko Murota
東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京科学大学・昭和音楽大学非常勤講師。NHK-FM「オペラ・ファンタスティカ」レギュラー・パーソナリティ。オペラを中心にアーティストのインタビューや演奏会の紹介記事、エッセイなどを手がけるほか、ミュージカル、ロック、少女漫画などのジャンルでも執筆活動を行なっている。著書に『オペラの館がお待ちかね』(清流出版)、共著に『ヴィジュアル系の時代 ロック・化粧・ジェンダー』(青弓社)など。

