
東京都交響楽団の首席ファゴット奏者・長哲也が、この10月、Hakuju Hallの「リクライニング・コンサート」に出演する。東京藝大卒業と同時に都響へ入団し、以後10年以上首席奏者を務め(その後リヨン高等音楽院大学院も修了)、室内楽等でも活躍する彼は、同楽器の新世代を代表する存在。リサイタルも「ここ10年ほど年1〜2回行っている」が、東京での本格的な公演は「2015年の東京オペラシティ『B→C』以来」だという。今回は休憩なしの1時間公演とはいえ、それほど貴重な機会だ。
「皆さんファゴットに絞って耳を傾ける機会はあまりないと思うので、今回はできるだけ心地よく聴いていただける内容を心がけ、難解なオリジナル曲ではなく、純粋に楽しんでもらえる曲を中心に選びました」
プログラムにはドイツ・ロマン派と近代フランスの多彩な作品が並ぶ。
「シューマンの『3つのロマンス』は様々な楽器で演奏されるお馴染みの作品で、ラヴェルの『ハバネラ形式の小品』とフォーレの『小品』はヴォカリーズ=歌詞のない歌。以上は美しい旋律を持つ親しみやすい曲です。デュティユーの『サラバンドとコルテージュ(行列)』は、パリ音楽院の試験曲。前半はゆったり、後半は技巧的な内容で、かなり若い時の作品ゆえに、後の作風とは違った穏やかな音楽です。ブルッフの『ロマンス』はヴィオラのために書かれた綺麗な曲。フランス留学中に先生が好んで演奏されていたのを聴いて『いいな』と思い、ことあるごとに取り上げています。ウェーバーの『アンダンテとハンガリー風ロンド』はヴィオラ用の曲を作曲者自身が編曲した作品。デュティユーとウェーバーはファゴットの定番曲で、後半がかなり盛り上がるので、そうした一面も聴いていただけます」
共演するピアニスト、永原緑への信頼も厚い。
「管楽器伴奏の経験豊富な奏者。入念な準備をしてきてくださるので、余計なことを考えずに音楽に集中できます。特に音量が強くないファゴットの音をよく聴いて、絶妙にコントロールしてくれる。私が藝大在学中に伴奏助手をされていて、それ以来共演を続けています」
ちなみにHakuju Hallは「高級感があって、演奏者も聴衆もメンタル的に落ち着ける空間」だと話す。そこでのリサイタルとなればより注目度がアップする。
「オーケストラの公演でファゴットをスポット的に聴くことはまずないでしょう。しかし今回は、最初から最後までこの楽器の音を聴けるので、音域によるキャラクターの違いや曲による表現の違いなど、普段接する機会が稀な一面を楽しんでいただきたいです」
本公演に足を運べば、幅広い音楽ファンが「発見」の喜びを得られるに違いない。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2025年9月号より)
第181回 リクライニング・コンサート 長 哲也(ファゴット) & 永原 緑(ピアノ)
2025.10/9(木)15:00 19:30 Hakuju Hall
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700
https://hakujuhall.jp


