大野和士&都響が迫るショスタコーヴィチ晩年の深遠
世界的ヴァイオリニスト、アリーナ・イブラギモヴァが協奏曲第2番を独奏

左:大野和士 ©Rikimaru Hotta
右:アリーナ・イブラギモヴァ ©Joss Mckinley

 没後50年のアニバーサリーを迎えたショスタコーヴィチ。9月の都響による定期演奏会は、この作曲家のファンならずとも聴いておきたいプログラムだ。音楽監督・大野和士自ら指揮して、作曲家にとって生涯のなかで最後となった協奏曲と交響曲の2作品を取り上げる。ショスタコーヴィチがその晩年にたどり着いた境地を味わい尽くす演奏会だ。

 ヴァイオリン協奏曲第2番は、ドラマティックな第1番に比べると、演奏会で取り上げられる機会は多いとはいえないものの、円熟した筆致で、内面を深く掘り下げた作品だ。今回は、民族的なパッションをヴィルトゥオーゾ性へと高めるヴァイオリニスト、アリーナ・イブラギモヴァがソリストとして登場。最初の独奏フレーズから、その魔力的な歌い回しに引き込まれてしまうこと間違いない。各楽章に設けられたカデンツァを含め、作曲家の内面をじつに生々しく描いてくれるだろう。

 そして、自作や他作の引用やほのめかしを多数含み、室内楽的なエッセンス、打楽器の効果的な使用など特徴の多い交響曲第15番。これまでの人生を振り返りつつ、ミステリアスな要素も目立つ最晩年の作品である。

 折にふれてショスタコーヴィチ作品を取り上げてきた大野和士。今回も、彼ならではのケレン味のない誠実な音作りによって、作曲家の心情が聴き手の心にストレートに伝わってくる演奏が期待できそうだ。

文:鈴木淳史

(ぶらあぼ2025年8月号より)

大野和士(指揮) 東京都交響楽団
第1025回 定期演奏会Aシリーズ

2025.9/3(水)19:00 東京文化会館
第1026回 定期演奏会Bシリーズ
9/4(木)19:00 サントリーホール
問:都響ガイド0570-056-057
https://www.tmso.or.jp


鈴木淳史 Atsufumi Suzuki

雑文家/音楽批評。1970年山形県寒河江市生まれ。著書に『クラシック悪魔の辞典』『背徳のクラシック・ガイド』『愛と幻想のクラシック』『占いの力』(以上、洋泉社) 『「電車男」は誰なのか』(中央公論新社)『チラシで楽しむクラシック』(双葉社)『クラシックは斜めに聴け!』(青弓社)ほか。共著に『村上春樹の100曲』(立東舎)などがある。
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