
Bunkamuraの「Pianos’ Conversation」シリーズ第5回に阪田知樹と務川慧悟が2台ピアノデュオで登場する。2021年のエリザベート王妃国際音楽コンクールに揃って入賞(第3位・務川、第4位・阪田)した二人は東京藝術大学の同期。
阪田「僕は3年生のときにハノーファー音楽演劇大学のアリエ・ヴァルディ先生のもとへ留学しました。務川さんも同じときにパリ音楽院へ留学したので、それまでの2年半、一緒でした」
務川「僕はマスタークラスを受けたことがきっかけでパリ音楽院を選びました。阪田さんがパリへ来てくれたとき、楽譜店へ一緒に行ったんですよ。店に入ると店員さんが、『お探しの楽譜は何でしょうか?』と親切に訊いてくるんですが、彼は『いや、ちょっと…』と棚を片っ端からみて一冊ずつチェックしていき、これぞと思うものを買うわけです。すごい楽譜マニアなんですよ」
阪田「時間はかかるけれど、掘り出しものをみつけたときは最高です。19世紀に出版された楽譜も持っていますし、作曲家の自筆譜や手紙なども手に入れています。フォーレの自筆サインの入った手紙も持っているんですよ」
務川「いいなあ。どこにそんなに置いているの?」
阪田「ドイツと日本と半々くらいかな」
二人が初めて公式に共演したのは2022年の名古屋国際音楽祭。曲はモーツァルトの2台のピアノのための協奏曲だった。東京での初共演となる今回は、主催のBunkamuraからまず阪田がオファーを受け、誰と共演したいか尋ねられて務川の名をあげたという。
阪田「今回は生誕150年のラヴェルをメインに、フランスの作曲家を中心にプログラムを組みたかったので、パリで勉強してラヴェルなどのフランス音楽を多く演奏している彼にぜひにとお願いしました」
務川「プログラムは阪田さんが組んでくれたんですよ。僕は意見を求められましたが、『いや、もう何も言うことはない、このままでいいよ』と」
ではその選曲のポイントや、各曲の聴きどころは?
阪田「最初に、ラヴェルと同じくフォーレ門下だったフローラン・シュミットの『3つの狂詩曲』から第1曲〈フランス風〉を弾きます。この作品は2台ピアノのためのオリジナルで、3つの国にわたる3曲から構成されていますが、フランス音楽プログラムの幕開けとして第1曲のみを取り上げました。次のドビュッシー『3つの夜想曲』は管弦楽が原曲ですが、それをオーケストレーションの天才として知られるラヴェルが逆に2台ピアノ用に編曲しているのが面白いところでしょう。そして前半の最後が、ラヴェルの管弦楽作品のうちでも有名な『スペイン狂詩曲』。作曲者本人による2台ピアノ編曲で弾くんですが、オーケストラ版の原型のような感じですね」
務川「休憩を挟んで演奏する『耳で聴く風景』は、ラヴェルが20歳くらいの若い時に2台ピアノのために書いた作品でやはりスペイン趣味に満ちています。ラヴェルのお母さんがフランスとスペインの国境地帯のバスク人でしたから」
阪田「この2作を対で聴いていただくことが狙いです。注意深く聴いていただくと、関連がわかっていただけるでしょう。次はプーランクの『2台のピアノのためのソナタ』ですが、この曲の最初の響きは『耳で聴く風景』の2曲目の世界観と繋がりがあります」
務川「最後はガーシュウィンの《ポーギーとベス》をもとに、オーストラリアの作曲家グレインジャーが編作した幻想曲。ラヴェルはアメリカ演奏旅行中にガーシュウィンと会い、ちょっとしたエピソードも残しました。ですからプログラムはすべて、ラヴェルが軸となっています。そのあたりのステージ・トークは阪田さんにまかせます」
阪田「いや、彼にもしゃべってもらいます(笑)」
取材・文:萩谷由喜子
(ぶらあぼ2025年7月号より)
Pianos’ Conversation 2025
2025.11/3(月・祝)15:00 Bunkamuraオーチャードホール
6/21(土)発売
問:Bunkamura 03-3477-3244
https://www.bunkamura.co.jp