20代前半のバッハの傑作集・7つのトッカータは、太陽と月と5惑星の性格をもっているようだ。渡邊順生の精緻なチェンバロ演奏は、切れ味よく声部書法を丁寧に作るので、フーガの構造が分かりやすい。バッハの魅力と奥深さを実感できる。同時に自ら執筆したライナーノーツの学識豊かな解説が、作品理解を更に深めてくれる。ニ短調のトッカータは、太陽になぞらえる大作で、機動性ある第1フーガ、美しい歌のアダージョ、躍動感のある第2フーガと、どこをとっても面白い演奏だ。ニ長調の曲は、イタリア協奏曲の様式が浸透していて魅力的。ハ短調の曲の最後の二重フーガが、雄大で聴き応えがある。
文:横原千史
(ぶらあぼ2025年7月号より)
【information】
CD『J.S.バッハ:7つのトッカータ/渡邊順生』
J.S.バッハ:7つのトッカータ BWV910〜916
渡邊順生(チェンバロ)
コジマ録音
ALM-1228 ¥3300(税込)