ヤノフスキ、カネラキス、イッサーリスらがこの夏限りの若きオーケストラと共演

7月の札幌は「パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌(PMF)」の季節。世界中から優秀な若きアーティストが集い「PMFオーケストラ」を結成し、世界的楽団のトップ奏者たちを中心とする豪華な教授陣と、国際的に活躍する指揮者が参加。ここでしか体験できない指導と多彩な公演が実現する。
今年の期間は7月9日から29日。前半の客演指揮者はアメリカ出身のカリーナ・カネラキス。現在オランダ放送フィル首席指揮者をつとめ、世界の一流オーケストラに客演を重ねる、飛ぶ鳥を落とす勢いの新鋭だ。2012年にはコンダクティング・アカデミー生としてPMF参加。今回の来日は指揮者としての日本デビューであるとともに、PMFには「凱旋」の帰還となる。
カネラキスが登場するのは「オープニング・ナイト」(7/9)、「PMFオーケストラ演奏会」(苫小牧7/12、札幌7/13)。「オープニング」は恒例のPMF創設者バーンスタイン「キャンディード」序曲に続き、実演機会の少ないシューマン「4本のホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュテュック」。ロサンゼルス・フィルのアンドリュー・ベイン、ベルリン・フィルのシュテファン・ドールとサラ・ウィリス、元N響の福川伸陽、内外の最強プレイヤーがそろう。「演奏会」ではマーラーの交響曲第1番「巨人」を披露。カネラキスが世界各地で取り上げてきた得意曲で、PMFオーケストラを率いての壮烈な快演に期待が膨らむ。ヴァイオリン五明佳廉とのシベリウスの協奏曲も注目。ジュリアード音楽院で学び欧米で活躍する名手で、スマートかつ温かみを備えた音色でシベリウスの核心に迫る。
後半の「ピクニックコンサート」(7/26)、「GALAコンサート」(7/27)、「東京公演」(7/29)には、首席指揮者としてマレク・ヤノフスキが登壇する。半世紀近いキャリアをもつドイツ音楽の世界的巨匠は、実は2020年に参加予定だったが音楽祭そのものが中止となり、満を持してのPMF参加となる。演目はシューマンのチェロ協奏曲と交響曲第3番「ライン」、R.シュトラウス「死と変容」ほか、ドイツ王道の4作品。若者たち中心のオーケストラをどう鍛えて高みへ導くのか、大いに期待したい。さらに注目を集めるのが、チェロの世界的巨匠で音楽の喜びを体現するカリスマ、スティーヴン・イッサーリスの登場。対照的な雰囲気をもつヤノフスキとの初共演でのシューマン、どんな演奏になるのか楽しみだ。
豪華教授陣によるアンサンブル公演も柱のひとつ。ヴァイオリンのライナー・キュッヒルらウィーン・フィルの元・現奏者たちを中心とする「PMFウィーン」(7/11)、ベルリン・フィル管楽器奏者らによる「PMFベルリン」(7/15)、北米メジャー・オーケストラ首席奏者たちの「PMFアメリカ」(7/23)、それぞれユニークなプログラムで世界水準の名技を聴かせる。
ほかにも、札幌交響楽団が登場する「ホストシティ・オーケストラ演奏会」(7/21)、公開リハーサルやマスタークラス、ワークショップもあり、PMF参加奏者たちによるアンサンブル公演が近郊都市でも開催されるなど、音楽に満たされる3週間になる。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2025年7月号より)
パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌 2025
2025.7/9(水)~7/29(火)
札幌コンサートホール Kitara、札幌芸術の森、苫小牧、江別、小樽、遠軽、奈井江、函館、東京
問:パシフィック・ミュージック・フェスティバル組織委員会 011-242-2211
https://www.pmf.or.jp
※フェスティバルの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

林 昌英 Masahide Hayashi
出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。