【SACD】ベートーヴェン:弦楽三重奏曲全集/アンサンブル天下統一

 ベートーヴェンが四重奏に取り組む前に集中した全5作の弦楽三重奏曲。「天下統一」のセッション録音は、先行の喜遊曲的な2曲はのびやかな表現と名技を、堅固な作風の作品9は緊密な構築を聴かせる。しかし彼らほどの名人となると、緻密になるほどむしろ感性の自由度と余裕が増すかのよう。ことに作品9-1は圧巻で、後半楽章の追い込みには興奮すら覚える。ヴィオラの全方向への桁違いの表現力が核となり、チェロの盤石の支えに、ヴァイオリンが安定の超絶技巧で悠々と歌う。3人の関係性や表情まで浮かんでくるような、かつそれが楽曲の真価にも直結する、見事な快演集だ。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2025年6月号より)

【information】
SACD『ベートーヴェン:弦楽三重奏曲全集/アンサンブル天下統一』

ベートーヴェン:弦楽三重奏曲 op.3、同op.9-1〜3、ヴァイオリン ヴィオラとチェロのためのセレナーデ op.8

アンサンブル天下統一
【長原幸太(ヴァイオリン) 鈴木康浩(ヴィオラ) 中木健二(チェロ)】

オクタヴィア・レコード
OVCL-00875(2枚組) ¥5500(税込)