【CD】ある午後、ファン・スヴィーテン男爵のサロンより/七條恵子

 歴史が重層的にたくし込まれた一枚だ。主役はモーツァルトだが、ウィーン時代初期に出入りした外交官ファン・スヴィーテンのサロンで知った大バッハ、そしてC.P.E.バッハの音楽が組み合わされ、対位法などバロック期の技法をモーツァルトが取り入れてゆくドキュメントとなっている。また1802年製のフォルテピアノが用いられ、揺らぎと即興性に富むロマン派のモーツァルト演奏が再現される。そして肝心なのは、七條恵子という優れた奏者が、そこに現代を生きる音楽家の魂を吹き込んでいること。奔流のようなパッションと俯瞰の冷静な視点が両立する。かくして、モーツァルトの音楽は未来へと向かう。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2025年6月号より)

【information】
CD『ある午後、ファン・スヴィーテン男爵のサロンより/七條恵子』

J.S.バッハ:シンフォニア第9番/モーツァルト:ピアノ・ソナタ第12番、同第14番、転調するプレリュード(ヘ長調からハ長調へ)、幻想曲 ハ短調/C.P.E.バッハ:クラヴィーア小品 イ長調

七條恵子(フォルテピアノ)

Challenge Classics/東京エムプラス
XCC 720004 ¥3300(税込)