
ハンガリーにルーツを持つスイスのヴァイオリニスト、ゲザ・ホッス=レゴツキが5月、すみだトリフォニーホールで、リサイタルと協奏曲で構成されるオール・ブラームス・プログラムを披露する。
「ハンガリーのロマ音楽は、伝統と経験の両方を通じて、私の音楽的アイデンティティを形成する上で重要な役割を果たしてきました。私の家系であるホッス家は、この伝統と深い関係があります。20世紀半ば、我が家にはクラシック音楽への理解を深めようと模索するロマの若い音楽家たちが集まり、交流の場となっていました。例えばピアニストのジョルジュ・シフラは私の祖父とかなりの時間を過ごしました。こうした環境がクラシック音楽とロマ音楽のユニークな融合を育んだのです」
今回は、ピアニストの沼沢淑音、協奏曲では沼尻竜典が指揮する新日本フィルハーモニー交響楽団と共演。彼によると、前半のリサイタルで演奏されるハンガリー舞曲だけでなくヴァイオリン協奏曲の、特に終楽章のリズムの特性や旋律の流れからも、ブラームスがハンガリーのロマ音楽に影響を受けたことが感じられるという。
「ロマ音楽を学び演奏することでブラームス作品へのアプローチを形作ってきました。私にとってブラームスを演奏することは、単に技術的あるいは解釈的な行為というだけでなく、親しんできた伝統と対話するということです。このつながりは、ヴァイオリン協奏曲でとくに意味を持つようになりました」
最近はこの作品のカデンツァの作曲にも取り組む。
「私は長い間、自分自身でカデンツァを作曲することを夢見てきましたが、この協奏曲は、その夢を実現するための理想的な“キャンバス”のように感じられました。作曲に取り組むことは、私自身の音楽的な背景や影響を反映しながら、創造的なリスクを恐れずに踏み出す準備が整ったという実感にもつながっています。そうして生まれたカデンツァは非常にユニークで、生き生きとしたものになりましたが、ひとつのカデンツァがすべての演奏に合うとは思っていません。人生が変化していくように、演奏解釈も進化すべきだと考えています。そうした考えのもと、カデンツァには即興演奏も意識的に取り入れています。
ブラームスの音楽は完璧な構成の中に深い感情を持っています。すべての音に心が込められ、すべてのフレーズに意図があります。第2楽章は静かな祈りのようですが、最終楽章は激しい踊りとロマの魂が炸裂しているかのようで、私に何かを深く語りかけてくるのです」
アルゲリッチもその才能を認める、ゲザ・ホッス=レゴツキのブラームス演奏に注目である。
取材・文:山田治生
(ぶらあぼ2025年6月号より)
ゲザ・ホッス=レゴツキ meets 新日本フィルハーモニー交響楽団
2025.5/31(土)15:00 すみだトリフォニーホール
問:トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212
https://www.triphony.com