原田慶太楼&東響が今年もサマーミューザのフィナーレへ——服部百音と描く「不滅」の音楽

INTERVIEW 原田慶太楼(東京交響楽団 正指揮者)

 東京交響楽団の正指揮者 原田慶太楼は、フェスタサマーミューザ KAWASAKIの看板アーティストのひとりだ。8月11日のフィナーレコンサートでは東響とともに、芥川也寸志の映画音楽『八甲田山』とニールセンの交響曲第4番「不滅(滅ぼし得ざるもの)」のほか、盟友・服部百音を迎えてバルトークのヴァイオリン協奏曲第2番を披露する。原田がフィナーレコンサートを指揮するのは昨年に続いて6回目。プログラムのコンセプトや公演に込めた想いを語ってもらった。

今年は11楽団が集結!日替わりで熱演をくり広げる!

—— 原田さんはフェスタサマーミューザ KAWASAKIに毎年出演されていますが、このフェスティバルにはどのような特色があるのでしょう?

 サマーミューザは、日本のトップクラスのオーケストラが勝負をする場所だと思っています。勝負と言っても互いに戦っているわけではなく、フレンドリーな雰囲気のなか、プログラムのコンセプトなど、さまざまな工夫を凝らしながら切磋琢磨し、お客様に日頃の感謝を伝えているのです。お客様にとっては、普段親しんでいるプロのオーケストラを同じホールで聴き比べることができる貴重な機会にもなっています。

2024年のフィナーレコンサート 提供:ミューザ川崎シンフォニーホール

芥川、バルトーク、ニールセン——作曲家たちの50代を見つめる

—— 原田さんが指揮されるフィナーレコンサートは、芥川也寸志、バルトーク、ニールセンの作品で構成されています。このプログラムのコンセプトを教えてください。

 この公演のコンセプトは多層的なものです。アニバーサリーの作曲家を取り上げること、そして日本人の作曲家の作品を紹介することは、サマーミューザでずっと大切にしてきたテーマです。生誕100年を迎える芥川也寸志はそうした理由から選んでいます。今年は、バルトークの没後80年、ニールセンの生誕160年でもあります。
 今回はそのほかにも、「作品が書かれたときの作曲家の年齢」「ナショナリズム」、そして「戦争への不安」というキーワードがプログラムを形作っています。芥川の『八甲田山』、バルトークのヴァイオリン協奏曲第2番、そしてニールセンの交響曲第4番「不滅」は、すべて作曲家が50代のときに書かれました。3人とも民俗的素材を大切にした作曲家でした。またニールセンのシンフォニーは第一次世界大戦の最中に、バルトークのコンチェルトは第二次世界大戦の直前に書かれた作品で、どちらも戦争への不安を内包しているという共通点があります。生きた時代は異なりますが、それぞれの時代において最先端を追い求めた作曲家たちが、50代でどのような表現に達したのか、その点にぜひ注目してください。

—— 芥川の『八甲田山』は、1977年公開の同名映画のために書かれた作品で、第1回日本アカデミー賞の最優秀音楽賞を受賞しています。

 この映画を観たことのある人の多くは60代、70代で、それよりも若い世代の人は映像には接していない可能性が高いと思います。しかし、芥川の音楽は映画を観たことがなくても、純粋に音楽として楽しめるものです。難しく考えずに、芥川が日本の伝統や「和」を大切にして書いた音楽をシンプルに味わってほしいと思います。

服部百音が奏でる唯一無二のバルトーク

—— バルトークでソリストを務める服部百音さんとはたびたび共演されています。服部さんのヴァイオリンの魅力はどんなところにあるのでしょう?

 バルトークのヴァイオリン協奏曲第2番は本当に難しい曲で、ハイレベル以上のものを持っていないと弾くことができない作品です。服部さんはそれが可能なヴァイオリニストであり、本番での爆発力や化学反応にも大いに期待できます。実はこの作品は、すでに決まっていたニールセンの交響曲第4番と組み合わせるのにふさわしい作品として、彼女が提案してくれたものでした。ニールセンの交響曲の「不滅」というメッセージは、病に打ち勝ち、復活を遂げた彼女の人生とも重なります。生きる力とバイタリティに溢れる服部さんほど、今回のプログラムのソリストにふさわしい人はいないでしょう。

服部百音 (c)YUJI HORI

世界大戦と「不滅」——いま奏でたいニールセンの音楽

——「不滅」というタイトルをどのように解釈するか、さまざまな意見がありますが、原田さんのお話にもあったように、第一次世界大戦はこの交響曲を語るうえで重要なキーワードとなっています。私たちが生きる2020年代もまた戦争の時代です。

 ニールセンはこの交響曲で直接戦争を描いたわけではありません。けれども、「戦争の時代を生き抜いた」という実感は、作品の核となっています。第1楽章に現れるクラリネットのモチーフは、厳しい時代にあっても決して壊されることのない生命や希望を象徴しているのです。
 ニールセンの作品はあまり演奏される機会が多くありませんが、私は今後、集中的に交響曲や協奏曲を取り上げていくつもりです。

—— 東京交響楽団の正指揮者に就任されて4年の月日が経ちました。これまでを振り返って、どのような手応えを感じていらっしゃいますか?

 ジョナサン・ノットの音楽監督としてのビジョンがしっかりとあるからこそ、彼とは違うことにチャレンジすることで、オーケストラにフレキシビリティをもたらすことができました。ブレイキンやバーチャル・アーティストとのコラボレーション、こども定期演奏会の「新曲チャレンジ・プロジェクト」など、さまざまな企画を通して、新しいお客様との出会いもありました。とりわけ川崎市の特別支援学校3校と取り組んだ「かわさき=ドレイク・ミュージック」は、忘れ難いプロジェクトでした。生徒たちとともに、何ヵ月もかけて作り上げた「かわさき組曲」は、本当にかけがえのないものです。これからも、携わるすべての人が音楽の素晴らしさを再認識できるようなプロジェクトを続けていきたいと思っています。

取材・文:八木宏之
写真:編集部

フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2025
2025.7/26(土)~8/11(月・祝)


東京交響楽団 フィナーレコンサート
慶太楼が贈る、不滅の作曲家たち

2025.8/11(月・祝)15:00 ミューザ川崎シンフォニーホール

(14:00開場/14:20~プレトーク)
出演
指揮:原田慶太楼(東京交響楽団 正指揮者)
ヴァイオリン:服部百音
曲目
芥川也寸志:八甲田山(1977)
 No. 1 八甲田山(タイトル)
 No. 10 徳島隊銀山に向う
 No. 37 棺桶の神田大尉
 No. 38 終焉
バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番
ニールセン:交響曲 第4番「不滅(滅ぼし得ざるもの)」

問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/

特集:フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2025
川崎の夏を彩るオーケストラの祭典が今年もやってくる!ホスト・オーケストラの東京交響楽団をはじめとする首都圏の10団体に加え、九州交響楽団が初登場。計11のオーケストラが日替わりで熱き競演をくり広げる。注目の指揮者陣には、東響の音楽監督として最後の出演となるジョナサン・ノット、東京シティ・フィル常任指揮者の高関健、神奈川フィル音楽監督の沼尻竜典、新日本フィルの前音楽監督・上岡敏之、日本フィルを指揮する下野竜也と名匠たちが揃う。一方、九響の若き首席指揮者・太田弦をはじめ、出口大地、熊倉優、松本宗利音(しゅうりひと)、小林資典(もとのり)とフレッシュな顔ぶれも。「サマーナイト・ジャズ」、歌とオルガンで楽しむ「真夏のバッハ」、小川典子がライフワークとする「イッツ・ア・ピアノワールド」など恒例企画ももちろん健在。熱い夏の到来が待ちきれない!