ハーディング、ファルスタッフを語る!!

6月27日、今秋のミラノ・スカラ座 2013日本公演でヴェルディ/歌劇「ファルスタッフ」を指揮するダニエル・ハーディングの記者懇談会が行われた。

Music Partner of NJPを務める新日本フィルとの定期演奏会を翌日に控え、熱のこもったリハーサルが進むなか、その忙しい合間をぬっての席にもかかわらず、ハーディングは疲れを微塵も感じさせず、終始和やかで上機嫌にオペラに対する熱い想いを語った。

Photo:M.Terashi/TokyoMDE

■ハーディングさんが日本でオペラを指揮されるのは日本デビューとなった1999年エクサン・プロヴァンス音楽祭引っ越し公演でのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」以来となります。そのときにすでにオペラ指揮者としての資質の高さを感じさせるすばらしい演奏を聴かせていただきましたが、あらためて、ハーディングさんにとってのオペラとは?

完璧な芸術様式です。室内楽的要素、演劇的要素からバレエなど、すべてのものが含まれたもの、それがオペラです。それだけに、すべてがうまくかみ合って演奏がうまくいったとき、これほどエキサイティングなものはありません。ただ、オペラは恐い。怪獣のような存在で、大ダコ(笑)とレスリングするような気分です。

■「ファルスタッフ」は原作がシェイクスピアですが、イギリス人のハーディングさんにとってこのオペラはどのように映りますか?

作曲のヴェルディも台本を作ったボーイトもまったく英語がわかりませんでした。けれども、イタリア語に訳された原作をもとにしながら、まったく異なるバックグラウンドにもかかわらず、とてもシェイクスピアの芸術的な本質、イギリスのユーモア、哲学といったものを理解していると思います。それは典型的なイタリア気質とは違うものですが、シェイクスピアの精神を自分のものとして昇華させ、しかも愛と尊敬を失わなかったと言えるでしょう。

■スカラ座とは2005年「イドメネオ」でデビュー以来の関係ですが、今現在のスカラ座とは?

「イドメネオ」を指揮したときのことは今でもよく覚えています。それはプールに飛び込んでから泳ぎを覚えるような(笑)、そんな危険を伴うものでした。しかし、その後、いろいろなオペラを指揮する機会に恵まれました。オペラだけでなく、スカラ座管弦楽団とのツアーも行い数多くの指揮をしました。ですから、とてもアットホームな関係です。深く広い、いい関係を保てています。

■「ファルスタッフ」は今年1月に新演出で上演されましたが、その演出について、どう思いますか?

ほんとうにすばらしい演出です。絶対に一見の価値があると思います。美しいだけでなく、愉快で、速い動きで、細部にもこだわりのある考え抜かれた舞台です。詩的かと思うと次々と事象がうごく。ユーモアにあふれ、タイミングが絶妙なんです。演出家のロバート・カーセンさんは、ほんとうにすばらしい演出家です。私自身、彼といっしょに仕事ができることを、たいへんな喜びと感じています。ただ、残念なのは、毎晩指揮するのにたいへんで、ゆっくりと舞台を見ることが出来ない(笑)、いつかゆっくりと見たいと思わせるものです。ミラノで上演されたものとまったく同じ舞台を持ってきますので、それをご覧いただけるのですが、みんな経験を積み、月日を経ての日本公演ですので、よりよいものを日本のみなさんにお届けできると確信しています。

Photo:M.Terashi/TokyoMDE

■「ファルスタッフ」のキャスティングについてお話いただけますか。

ファルスタッフ役のアンブロージョ・マエストリはみなさんご存じのように、ほんとうに見た目もファルスタッフそのもの(笑)。でも、声がほんとうにすばらしい。色彩感あふれる声はほんとうにすばらしく、ファルスタッフ=マエストリさんと言っていいでしょう。人生を楽しむ達人で寛大でいたずら好き、でも、すごく優しい面を持っている方です。そして、なんといっても、ンバルバラ・フリットリさんですね。彼女は、現代最高のアリーチェ役だと思います。じつは、これほど難しい役はないんです。卓越した技術をもっていないと歌いきれない役ですが、彼女にはその技術がある。そのほか、フォード役のマッシモ・カヴァレッティさんもそうですが、それ以外にも若い歌手もすべてがトップレベルで、芸術のなかに生きている歌手たちばかりがやってきます。最高の演出と最高の歌手たちがやってくる。もし私がピットで指揮していなければ、この公演のチケットを買っていたでしょう(笑)

■特別演奏会ではヴェルディ以外の作曲家も指揮されますね。プッチーニについてはどのようにお考えですか?

今回のコンサートでは、とても魅力的なひとときをみなさんに過ごしていただけると思っています。ヴェルディ、プッチーニのみならず、レオンカヴァッロ、ワーグナーに至るまで、オペラの醍醐味を聴いていただけるプログラムです。プッチーニは天才だと思います。ヴェルディの時代になかったものを実現した。ヴェルディを踏襲しさらに発展させた。そういう意味では20世紀の作曲家だと言えるでしょう。しかしながら、ヴェルディの「ファルスタッフ」をみると、すでにそこにはプッチーニを予見させるものがそこここに見られる。ドイツオペラにおけるR.シュトラウスと同じだと言えるかもしれません。つまり、魅力的で表現力に富んだ作品を生み出すのに長けた能力の持ち主だと思います。
ただ、イタリアオペラの巨匠という意味では、私はヴェルディを一番にあげたいと思います。ヴェルディはワーグナーに似ていますね。とても深淵なものを作り出しながらも、最晩年にはユーモアにあふれる人間味豊かな作品を生み出した。

■他のオペラハウスにないミラノ・スカラ座の魅力とは?

イタリアはスカラ座のみならず、きら星のごとくすばらしいオペラハウスがあります。そのなかでもスカラ座はイタリア国民すべてが「神の祝福を受け、スカラの永遠の存在を願う」ような、そんな存在なんです。なんといってもすばらしい伝統を持っています。劇場に入ると、それまで幾多のすばらしい指揮者、歌手、演出家が仕事をしてきたか、感じることができるのです。しかし、それだけではありません。過去の栄光だけでなく、いまの姿があるからこそ、スカラは偉大なのです。そこで働くすべてのスタッフが組織としてもすばらしくまとまっている。それこそがスカラの魅力なのです。

(c)Rudy Amisano/Teatoro alla Scalla

■ミラノ・スカラ座 2013日本公演
●ヴェルディ/歌劇「ファルスタッフ」
全3幕[上演時間:2時間50分(予定)/休憩1回含む]
9月4日(水) 18:30 9月6日(金) 18:30 9月8日(日) 15:00 9月12日(木) 15:00 9月14日(土) 15:00 東京文化会館

指揮:ダニエル・ハーディング
演出:ロバート・カーセン
ミラノ・スカラ座管弦楽団 ミラノ・スカラ座合唱団

[予定される主な出演者]
サー・ジョン・ファルスタッフ:アンブロージョ・マエストリ
フォード:ファビオ・カピタヌッチ(9/4、8、14)、マッシモ・カヴァレッティ(9/6、12)
フェントン:アントニオ・ポーリ
アリーチェ:バルバラ・フリットリ
ナンネッタ:イリーナ・ルング
メグ:ラウラ・ポルヴェレッリ
クイックリー夫人:ダニエラ・バルチェッローナ

S席62000円 A席55000円 B席48000円 C席38000円 D席29000円

http://l-tike.com/d1/AA02G01F1.do?DBNID=1&ALCD=1&SRCID=Buraabo&LCD=34100

●特別演奏会
指揮:ダニエル・ハーディング
ミラノ・スカラ座管弦楽団
9月5日(木) 19:00 東京文化会館

S席19000円 A席17000円 B席15000円 C席12000円 D席10000円 E席8000円

http://l-tike.com/d1/AA02G01F1.do?DBNID=1&ALCD=1&SRCID=Buraabo&LCD=37667

■ミラノ・スカラ座 2013日本公演 http://scala2013.jp/

【関連公演】
新日本フィルハーモニー交響楽団 #517 定期演奏会
マーラー作品の深層を聴く。ハーディングの『夜の歌』
11月8日(金)19:15 すみだトリフォニーホール
11月9日(土)14:00 すみだトリフォニーホール
[曲]マーラー作曲 交響曲第7番ホ短調『夜の歌』
・一般発売:2013年6月29(土)10:00A.M.〜

S席10,000円 A席8,000円 B席6,500円 C席5,000円
http://l-tike.com/d1/AA02G01F1.do?DBNID=1&ALCD=1&SRCID=Buraabo&LCD=31817