春爛漫の弘前に全国から合唱団が集結!青森オペラ《愛の妙薬》

《愛の妙薬》徳島公演にてサブリーナ・サンツァ(ソプラノ)と合唱団員
©公益財団法人さわかみオペラ芸術振興財団 撮影:Photo Design Farbe 礒田尚樹

「日本にオペラ文化を広め、多くの人に『感動』とともに『心の贅沢』を味わってほしい」

 さわかみオペラ芸術振興財団の掲げる理念だ。この強い想いのもと、同財団は2014年の設立以来、さまざまな活動を展開している。大きな柱となるのは、ジャパン・オペラ・フェスティヴァル(JOF)の開催、音楽家の育成・支援、そしてオペラによる地域活性化の3本。JOFは、日本の歴史的建造物を舞台の借景とし、海外から一流の歌手とオーケストラを招聘して行う大規模な野外オペラ公演。これまでに姫路城、平城宮大極殿、熊本城、名古屋城、法隆寺などの名勝地に、アマリッリ・ニッツァ、キアーラ・イゾットン、アルベルト・ガザーレなど世界一流のスター歌手たちが出演している。

 また2015年度からは、世界で活躍する日本人音楽家の育成・支援のため留学の助成を行っており、その中の武井基治(テノール)は、トリエステ・ヴェルディ歌劇場で出演を続けている。2022年には映画『ライフ・イズ・ビューティフル』の音楽でアカデミー賞を受賞した作曲家ニコラ・ピオヴァーニのオペラ《Amorosa Presenza》に主役で出演。演出はリッカルド・ムーティの娘キアラ・ムーティが務め、イタリアの公共放送 RAI で放映され大きな話題となった。

 そして3つ目の地域活性化。地域を盛り上げるために財団がコンサートを企画・制作するのだが、最大の特徴は単に公演を開催するだけではなく、地域の人が参加し、公演開催に向け主体となって活動していくということ。具体的には、地元の人が中心となって合唱団を結成、財団が定期的にプロの歌手や指揮者を派遣し本格的な歌唱・演技指導を行い、公演に向け1年間にわたり練習を重ねていく。そして迎える本番では、ソリストを務めるプロの歌手と一緒にステージで歌うというもの。

さわかみオペラのキャスティングオーディションで審査をする
ヴィンチェンツォ・デ・ヴィーヴォ氏

 2018年に活動を開始した徳島では《カルメン》《椿姫》などすでに6演目を上演しており、22年には12月に開催する公演のチケットが、8月に早くも完売するという盛況ぶりだ。この合唱団コーロ・インダコ(イタリア語で藍)のメンバーも70人を超えている。ローマ歌劇場やボローニャ歌劇場などイタリアの主要歌劇場で芸術監督を歴任したヴィンチェンツォ・デ・ヴィーヴォ氏は徳島公演の様子を初めて目にしたとき「これがオペラの未来の姿だ」と呟いたという。

「さわかみオペラは、ごく普通の人に“オペラに出演する”という特別な体験を提供し、プロとアマチュアが一体となって一つの舞台を創り上げることに成功している。地方でのオペラの普及に貢献するとともに、世界的にも類を見ないこの取り組みは、国際的に見ても参考になると言えます。地方に暮らす人が音楽を生活の一部とすることで、次世代にもオペラ文化を継承していくでしょう」

 事実、この取り組みは徳島を皮切りに、喜多方「酒蔵オペラ合唱団」、南魚沼「南魚沼オペラ合唱団うたのみ」、那智勝浦「TUNA GOOD(ツナぐ)」と拡大を続け、2024年春には青森県弘前市で「コーロ・クアトロミッレ」が誕生する。その名はイタリア語で4000年という意味を含み、かつて縄文文化が花開いた土地に由来している。

喜多方で《愛の妙薬》の合唱指導をする武井基治氏(中央)

 2025年5月、この弘前の地に上記の全国の合唱団が集結し、オペラ《愛の妙薬》を上演するという。このために、それぞれの地域においても同じ《愛の妙薬》を共通の演目として上演し、練習を重ねてきた。遠く離れた地に暮らす人々が、同じ思いを胸に日々切磋琢磨を積み重ね、ついに弘前の地で邂逅する。まさに前例のない試みだ。

 さわかみオペラ芸術振興財団の理事長を務める澤上篤人は次のように語る。

「年に一回、プロの歌手を連れてきて公演をするだけでは、一時的な盛り上がりに終わってしまい本当の地域活性化には繋がりません。やはり地元の人が心から楽しむことが何よりも大切です。すると人が集まってくるようになり、人が集まれば今度は経済も活気づいていく。そうして真の意味での“活性化”が始まっていくのです」

 このオペラを通じた稀有なチャレンジは、全国に新たな結びつきを芽生えさせ、これまでにない地域活性化のモデルとなっていくに違いない。

取材・文:編集部
(ぶらあぼ2025年5月号より)

青森オペラ《愛の妙薬》
2025.5/24(土)14:00 弘前市民会館
問:さわかみオペラ芸術振興財団0570-023-223
https://sawakami-opera.org