
垣岡敦子の歌はあたたかい。辺りの空気が温もりで包まれるようだ。力に頼らず自然に広がるその声は、高音の極上の響きと珠玉のピアニッシモを伴い、耳にやさしく届く。ドラマティックな役を歌ってもやわらかさは失われず、強さが内包される。
イタリアからの完全帰国後に始めた「AMORE〜愛の歌」シリーズが、10年の長きにわたって支持される理由は、垣岡の歌のそんな魅力にある。
Vol.6からはオペラのハイライト版を上演しており、昨年はグノー《ロメオとジュリエット》を満喫させてくれた。垣岡自身による的を射た演出のもと、ワルツの快活な華やぎ、のちの悲劇が濃さを増す甘い二重唱、仮死状態になる薬を飲む前の凛とした決意。ジュリエットを歌った垣岡の、やわらかくも骨太な歌唱が筆者の耳に残っている。
そして、今回は10周年を記念した「オペラ・ガラ・コンサート」。節目にふさわしい豪華な内容である。Vol.9のロメオのほか、Vol.8のプッチーニ《蝶々夫人》でピンカートン、Vol.7の同《トスカ》でカヴァラドッシ、Vol.6のマスネ《マノン》でデ・グリューを歌ってきた、このシリーズのパートナーでもあるテノールの宮里直樹のほか、《トスカ》のスカルピアを歌った上江隼人、《蝶々夫人》のスズキを歌った但馬由香と、日本を代表する歌手陣が揃う。
そして、まさに上に挙げた4つのオペラから、ハイライトの中のハイライトがたっぷり味わえる。ピアノはシリーズの音楽監督でオペラを知り尽くした村上尊志。濃密な2時間が約束されている。
文:香原斗志
(ぶらあぼ2025年5月号より)
垣岡敦子 AMORE 〜愛の歌 10周年記念 オペラ・ガラ・コンサート
2025.5/24(土)15:00 王子ホール
問:新演コンサート03-6384-2498
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