コロナ禍の最中、オペラ公演中止から実現したショスタコーヴィチ公演。2024年での引退を発表した井上が「最後の第5番」の覚悟で臨み、かなりのハイテンションだが、あくまで純音楽的アプローチで構築されて、烈しさの裡に温かくヒューマンな情感が横溢する。もちろん繊細さも迫力も十分だし、わずかな乱れやズレのある(もちろん演奏の価値は落ちない)入魂の一夜のライブ感がたまらない。壮絶な終結後の歓声のない拍手まで収録した判断もすばらしく、声を奪われた時代の空気をも伝える。井上の音楽への愛と当時の状況への怒りとが、楽曲のパワーとリンクした一期一会の記録。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2025年5月号より)
【information】
SACD『ショスタコーヴィチ:交響曲第5番/井上道義&読響』
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番
井上道義(指揮)
読売日本交響楽団
収録:2022年2月、サントリーホール(ライブ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00822 ¥3850(税込)