日中韓のスターが魂を交える渾身の三重奏
中国が生んだ世界的チェリスト、ジャン・ワンが、今年5〜6月、人気ヴァイオリニスト、神尾真由子、リーズ国際コンクールで最年少優勝を果たした韓国の俊才ピアニスト、キム・ソヌクと組んだトリオの公演を行う。
この企画は、彼の声がけで実現した。
「神尾さんは、いしかわミュージック・アカデミー、ソヌクさんは韓国の音楽祭で、それぞれ素晴らしい演奏を聴き、一緒に組もうと考えました。ここ2〜30年の間にアジア人の音楽家は欧米で大きな存在になっています。日本だけでなく、韓国のレベルも上がり、中国も追いついてきました。そこで各国の演奏家が集まり、アジアを統合した市場を作るのは、意味のあることだと思います」
日中韓のコラボは「意図的」であり、「この3人で3ヵ国をまわります!」と力強く話す。揃っての共演は初めてだが、2人への期待も大きい。
「私は、火のように燃えた情熱を露にする神尾さんの強烈さが大好きです。またソヌクさんの演奏は、大きく堂々としていて品格があります」
ピリス、デュメイとのトリオでも知られる彼は、ピアノ三重奏に独特の魅力を感じている。
「弦楽四重奏は、経験から結果が生まれますので、ソリストが急に組むことは滅多にありません。しかしトリオは違います。ピアノが厚みのあるベースを築いてくれますし、憧れている人と組んで演奏できる自由があり、スリルや驚きがあります。このアーティストが一緒に演奏したらどうなるだろうか? というのは、興味深い想像だと思いませんか? 個性が集まると化学反応を起こし、相手によって演奏も変わります。それを聴くのは、とても楽しいことではないでしょうか」
今回は、チャイコフスキーの大作「偉大な芸術家の思い出に」とベートーヴェンの「幽霊」がメイン・プログラム。
「チャイコフスキーの曲は亡き友人のためのメモリアルであり、強く深い感情が込められています。非常に複雑で、弾き終わると、まるで美術館を全部観て回ったような疲労感を感じる作品ですが、それだけに素晴らしい。彼の中でも名作中の名作です。ベートーヴェンは全く反対。チャイコフスキーは嘆きや悲しみを前面に出しますが、ベートーヴェンの考えは全て内面にあり、感情を制御しながら、反逆心をもって運命と闘います。今回の作品にも、人間の心を自由にするための“闘う精神”が強く表れています」
彼個人としては「中国での活動が非常に増えてきた」という。
「立派なコンサートホールが増えていますし、クラシック音楽を初めて聴く人も多く、聴衆も若い。中国の人々が音楽を楽しむ時代が来たのは、嬉しい限りです」
3ヵ国の実力者が揃う今回のトリオでは、そうしたアジアのエネルギーを存分に体感したい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年5月号から)
神尾真由子(ヴァイオリン)×ジャン・ワン(チェロ)×キム・ソヌク(ピアノ)
スーパー・トリオ
6/3(水)19:00 紀尾井ホール
問:アスペン03-5467-0081
http://www.aspen.jp
他公演
5/29(金)青山音楽記念館バロックザール
5/30(土)松江プラバホール
5/31(日)兵庫県立芸術文化センター
6/1(月)アルカスSASEBO(中)
問:アスペン03-5467-0081