昨年末に引退した井上道義。彼と長年にわたって深い関係を築いてきた新日本フィルを指揮し、2021年にライブ録音した「シェエラザード」だ。決して大風呂敷を広げるようなことはなく、抑制もぴりっと効いた、整えられたバランスによる演奏からは、ほのかな色彩性が香り立つ。コンサートマスターの崔文洙によるソロは、その場面に応じてさまざまに表情を変化させていく。白眉は第3楽章だ。艶やかな抒情を湛えつつも、しみじみと歌う弦楽器。オーボエなどの木管ソロにも、フレーズのすみずみまで歌心が行き渡る。後半でシェエラザードの主題が戻ってくるところは官能が渦巻く。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2025年3月号より)
【information】
SACD『リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」/井上道義&新日本フィル』
リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」
井上道義(指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団
崔文洙(ソロ・ヴァイオリン)
収録:2021年4月、すみだトリフォニーホール(ライブ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00800 ¥3850(税込)