石上真由子が最強メンバーを迎えブルックナーの弦楽五重奏曲に挑む
室内楽プロジェクト「Ensemble Amoibe vol.61」

左より:村上淳一郎、石上真由子、金子鈴太郎、大山平一郎
 若手ヴァイオリニストのなかでも個性的な活動でひと際注目を集める石上真由子。彼女が2018年に立ち上げた自主企画「Ensemble Amoibe」の61回目となる演奏会が12月、京都(12/25)と東京(12/26)で行われる。前回は一線で活躍する名手たちとベートーヴェンの七重奏曲などを取り上げ話題を呼んだが、今回は水谷晃(東京都交響楽団コンサートマスター)、大山平一郎(元ロサンゼルス・フィル首席ヴィオラ奏者)、村上淳一郎(NHK交響楽団首席ヴィオラ奏者)、金子鈴太郎(元大阪交響楽団首席チェロ奏者)という日本を代表する4人の弦楽器奏者を迎え、生誕200年のブルックナーの弦楽五重奏曲をメインに据える。彼らは8月にこの作品を収録したアルバムをリリースしているが、はたしてコンサートではどのようなパフォーマンスを見せてくれるのだろうか。11月某日、石上、大山、村上、金子の4名が、各メンバーへのリスペクト、そしてこのチームでしかなしえない演奏の魅力を語ってくれた。

石上のもとに集結した最高のメンバーたち

石上 今年はブルックナーの生誕200年ということもあって、私の主宰するEnsemble Amoibeで彼の弦楽五重奏曲を取り上げることにしました。大山さんをこの公演にお誘いした時に、CDも作れたらいいのにね、と二人で立ち話をしていたのが、思わぬ形で実現して。

大山 誰と一緒に弾くかということにも夢を持っていたんだよね。

石上 やっぱりオーケストラサウンドをよく知っている人で、室内楽の経験も豊富な方がいいなと思っていました。金子さん、水谷さんとは大山さんが主宰するMusic Dialogueという団体でたくさん共演していましたけど、村上さんとは今回が初めてでした。大山さんと村上さんも初共演ですよね。

村上 もう最高でしたよ。

金子 最高のヴィオラセクションだったね。

石上 お二人は音質も歌い方も全然違うけどすごく音楽的で。

金子 自分を犠牲にして合わせることをしないのに、自然とまとまっていく。

村上 それが室内楽の醍醐味だよね。

大山 僕からみんなを見ててもそう思うよ。

金子 今日は水谷くんがいないけど、この5人は居心地がいいんだよね。一緒に弾いていて幸せを感じるし、集まるだけでなんだか安心する。

石上 水谷さんは演奏中の気配りもすごかった。金子さんは全体をうまくドライブさせてくれますよね。

金子 みんなの音を聴いて「いい音楽だな」と思いながら弾いていると勝手にそうなる。このメンバーは本当にすごい。楽しいんだよ。

大山 あらためてCDを聴いて、本当に素晴らしい録音だと思った。メンバー同士が兄弟や家族なんじゃないかと思うくらい音の受け渡しがスムーズで。

金子 渡さなきゃって思ってないんですよね。

大山 楽譜に忠実にっていう鉄則はあるけれども、それ以上の何かが必要なんだっていう意識がみんなの中にあるんだろうね。

レコーディングを経て再創造するブルックナーの五重奏曲

村上 交響曲とも共通する作風で同じような旋律が登場するけど、ハーモニーは全然薄く感じない。彼はオーケストラではオルガンの響きを常に目指していたので、叙情的な表現の箇所でもスケールの大きな音がするんだけど、室内楽になるとひとりの人間の独白みたいな音楽やアクティブさもある。

大山 交響曲第3番をワーグナーに献呈したんだけど、初演の評価は芳しくなかったんだよね。その後のかなり苦しい時期にこの曲を作曲していて、いろんなことを考えながら書いたんだなっていうのが伝わってくる。

村上 モティーフも流動的で、オーケストラよりも自由さがありますよね。

石上 レコーディングでは細部まで詰めることができました。みなさんアンサンブル能力がすごく高くて、オーケストラのようなサウンドを感じるときもあって。

金子 本当にそれを実感した。

石上 この曲って調性的にもすごく弾きづらくて、オケだったらできても室内楽だと響かせることが難しくなるところが、こんなに艶やかで芳醇なサウンドで、音楽的にもすごく良いっていうのは…。なかなかないと思います。

村上 お互いを深く知って、いろんなアイディアにトライすることができたね。

金子 今までに何度も弾いているけど、今回ほど好きになったのは初めて。 困ったことに、もうこの曲を他の人と弾けない気がする(笑)。この曲、流行らせようよ。

石上 意外とブルックナーが弦楽五重奏曲を書いてるっていうのを知らない人もいますよね。

金子 日本では、お客さんがそれまで知らなかった曲を聴いた後、「いい曲だったけど今度は知ってる曲だと嬉しいです」って言われることもあって。今回はそれをひっくり返したいよね。

石上 今回の演奏会を聴いてもらえたら、ブルックナーを好きになってもらえる気がするんです。

村上 CDと同じ演奏を再現するんじゃなくて、全部壊して、もう一度創り上げたいよね。

大山 僕たちは意気投合して一つの録音を作り上げたわけだけど、やっぱりコンサートはまた違うもの。次はどうやって弾くの?って、皆に今すぐにでも尋ねたいところがある。

石上 録音よりもさらに充実した演奏を目指したいですね。

まとめ・写真:編集部

Ensemble Amoibe Vol.61
2024.12/25(水)19:00 京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ
2024.12/26(木)19:00 Hakuju Hall

出演
石上真由子、水谷晃(以上ヴァイオリン)、大山平一郎、村上淳一郎(以上ヴィオラ)、金子鈴太郎(チェロ)

曲目
ベートーヴェン:弦楽五重奏曲 ハ長調 op.29
ブルックナー:弦楽五重奏曲 ヘ長調 WAB112

問:Ensemble Amoibe 090-1131-1564
https://mayukoishigami.com


CD『ブルックナー&ミヨー/ミュージックダイアログ・アンサンブル』

ブルックナー:弦楽五重奏曲 ヘ長調 WAB112
ミヨー:バレエ音楽「世界の創造」 op.81b(ピアノ五重奏版)

石上真由子、水谷晃(以上ヴァイオリン)、大山平一郎、村上淳一郎(以上ヴィオラ)、金子鈴太郎(チェロ)、吉見友貴(ピアノ)

キングレコード
KICC-1619 ¥3300(税込)