藤岡のタクトが壮大に描く伊福部の大作「釈迦」

藤岡幸夫 ©金子 力

 東京シティ・フィルの首席客演指揮者・藤岡幸夫が、2月の定期に趣向を凝らしたプログラムで登場する。

 藤岡が邦人作曲家の作品を精力的に取り上げてきたことは周知の事実。とりわけ根強いファンを持つ伊福部昭作品はレパートリーの一角を占め、東京シティ・フィルとは舞踊曲「サロメ」の録音なども残している。

 そんな藤岡が今回取り上げるのは1989年に初演された交響頌偈(じゅげ)「釈迦」だ。若き王子・釈迦が悟りを求めてヒマラヤの王城を捨て(第1楽章:カピラバスツの悉達多(シッダルタ))、インドの聖地で苦行と瞑想を続けた結果、悟りを得るまでを描いた後(第2楽章:ブダガヤの降魔)、凡人の思惟を超えた境地に達した釈迦への賛歌で締めくくる(第3楽章:頌偈、頌偈とは仏や菩薩を讃える詩文のことで、ここではパーリ語佛典が引用されている)。重厚で息の長い旋律に始まり、第2楽章ではトレードマークのリズミカルな動機を畳みかけて修行の厳しさを表現、ラストでは壮大なクライマックスを形成して釈迦の偉大さを讃える。40分にわたり伊福部節が全開、聖なるものに触れるカタルシスを体験させてくれよう。専属合唱団、東京シティ・フィル・コーアも息のあったところを聴かせてくれるはずだ。

 プログラム前半にはブラームスの交響曲第3番が置かれているが、この組み合わせは藤岡が強く望んだものだという。西洋のシンフォニスト・ブラームスに、東洋のシンフォニストとして伊福部を対置させようという意図か。このあたりの妙もじっくりと味わいたい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2024年12月号より)

藤岡幸夫(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
第376回 定期演奏会
2025.2/14(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002
https://www.cityphil.jp