オランダの名匠ロナルド・ブラウティハム(フォルテピアノ)のベートーヴェンを聴く

© Marco Borggreve

 10月のアンドレアス・シュタイアーに続いて11月にはロナルド・ブラウティハムが来日し、大阪と東京でフォルテピアノのリサイタルを行なう。

 ブラウティハムはフォルテピアノとモダンピアノ双方の名手だが、彼の名が欧州で最初に知られるようになったのは、モダンのピアニストとしてのことだった。アメリカでルドルフ・ゼルキンのもとで研鑽を積み、オランダに帰国して数年後の1984年にオランダ音楽賞を受賞するなど、新進気鋭のピアニストとして注目を集めた。フォルテピアノを始めたのは、1987年に現代の名工ポール・マクナルティと出会い、翌年ヴァルターの複製を手に入れてから。あっという間にこの楽器をマスターして、1996年にスウェーデンBIS社とモーツァルトのソナタの録音を開始。ブリュッヘンら古楽の専門家たちの注目を集め、古楽器のオーケストラと共演したり、各地の古楽祭に出演するようになった。以来モダンのピアノとフォルテピアノの双方で活躍しているが、とくにフォルテピアノによるハイドンのソナタやベートーヴェンのソナタ・協奏曲の全曲録音は評価が高く、ベートーヴェンはドイツ・レコード批評家賞やエディソン賞を獲得している。

 そんなブラウティハムのフォルテピアノの魅力は、優れた演奏技術と欧州伝統の均衡のとれた洗練された音楽性にあり、その多くは師のゼルキンに負うところが大きい。筆者は以前ブラウティハムにインタビューをしたことがあるが、ふさふさとした金髪に大きな瞳を輝かせて師について熱っぽく語ってくれた。ゼルキンから教えられたことは、「楽譜をよく見なさい。一番重要なのは作曲家の自筆譜、続いて学問的な良い版。表現は少なすぎず、多すぎず。多すぎるとエンターテインメントになる。作曲家に仕えなさい。その逆ではなく」であり、彼自身フォルテピアノに強い関心を示していたそうだ。

 今回のトッパンホールはハイドンとベートーヴェンのソナタ。ハイドンはHobXVI:40と41。ベートーヴェンは「悲愴」「葬送」「月光」。東京文化会館小ホールと住友生命いずみホールはオール・ベートーヴェン・プロ。前者では「テンペスト」や「ワルトシュタイン」、後者では第30番など後期ソナタも披露する。トッパンホールと東京文化会館では前述のマクナルティが製作したヴァルター・モデル(1800年頃)を、いずみホールはベートーヴェンが愛奏したナネッテ・シュトライヒャーのオリジナル(1820年代)を弾く。全集録音の成果や今の心境が反映されるとともに、ハイドンではブラウティハムの快活でユーモアに富んだ精神が、ベートーヴェンでは先に挙げた音楽性とピアニズムの魅力が大いに発揮されることだろう。
文:那須田 務
(ぶらあぼ2024年11月号より)

ロナルド・ブラウティハム(フォルテピアノ)
2024.11/9(土)14:00 大阪/住友生命いずみホール
問:住友生命いずみホールチケットセンター06-6944-1188
https://www.izumihall.jp
11/11(月)19:00 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222
https://www.toppanhall.com
11/13(水)14:00 東京文化会館(小)
問:アレグロミュージック03-5216-7131
https://www.allegromusic.co.jp
※公演によりプログラムは異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。