取材・文:編集部
モーツァルトの学術研究や資料の収集機関である国際モーツァルテウム財団(Internationale Stiftung Mozarteum)が9月24日、東京・千代田区の第一生命 日比谷本社でメディア向け発表会をひらき、60年ぶりに改定されたモーツァルトの作品目録『ケッヘル目録 Köchel-Verzeichnis』を紹介するとともに、このたび新たに楽譜が発見された「2つのヴァイオリンとバッソ(バス楽器)のためのセレナーデ」 KV648が会見の場で日本初演された。
第一生命ホールディングス株式会社は、1996年のオーストリアのモーツァルト住家復元事業をきっかけに、社会貢献活動の一環として国際モーツァルテウム財団への支援をおこない、協力関係を築いてきた。この日の会見には、ザルツブルクから同財団のウルリッヒ・ライジンガー博士が来日し、稲垣精二取締役会長に目録を贈呈した。
原点回帰してナンバリングがおこなわれた新ケッヘル目録
ケッヘル目録は、多作家であったモーツァルトの作品群を体系的に整理するために、1862年にルートヴィヒ・フォン・ケッヘルによって初版が発表され、その後、各時代ごとの研究の成果を反映し、内容の更新が繰り返されてきた。1937年、1964年版(一般に第6版と呼ばれる)など、重要な改訂版がいくつかあるが、特に戦後、東西ドイツでそれぞれ別々に研究が進んだこともあり、このたび発刊された2024年版に至るまでには、実に複雑な経緯をたどっている。最新版では、モーツァルト研究の第一人者、ニール・ザスローが主幹編集を担い、今回来日したライジンガー博士が校訂をおこなった。
もともとが作曲年代順に並べたカタログであったために、後に新しい作品が追加発見されると、それらに付番する際にアルファベットをつけるなど、カタログが複雑化する要因ともなった。一部の作品に関しては、版ごとに異なる番号が振られたケースもある。しかし、絶筆となったレクイエム KV626のように、広く定着している番号もあるため、今回の約1300ページにおよぶ改訂版では、基本的に1862年初版のナンバリングに回帰、断片作品には第3版の番号が使われているという。また、新しい作品については、KV627以降の番号が付けられ、90以上の新しい番号が追加されている(その多くは消失作品または注釈で言及されていた作品)。結果として合計906作品が確認されたこととなった。付録も再編され、モーツァルトによる編曲作品やカデンツァ、習作、偽作の情報もまとめられている。
新発見! 若きモーツァルトによるセレナーデ
この日の会見では、池田梨枝子、宮﨑蓉子(以上ヴァイオリン)、山田慧(チェロ)、毛利美智子(フォルテピアノ)によって3曲の知られざるモーツァルト作品が披露された。なかでも、もっとも注目を集めたのが、このたび新発見された作品として、19日にザルツブルクでも発表された「2つのヴァイオリンとバッソ(バス楽器)のためのセレナーデ」 KV648である。
この作品のマニュスクリプト(手稿譜)は今から1年ほど前に、ライプツィヒの市立図書館で発見されたという。ハ長調のシンプルな作品は7つの短い楽章からなる。自筆譜ではなく、筆写者は不明だが、Wolfgang Mozart作との記載がある。決定的な証拠はないものの、1769年頃まではWolfgang Mozartと、ミドルネームAmadeusを入れない形が使われていたこと。また、作曲のスタイルが1760〜70年代の南ドイツやオーストリアに多くみられる作曲様式であること。姉が出版社のブライトコプフ&へルテルに送っている手紙のなかで言及があるトリオ作品 Ganz kleine Nachtmusik と合致すると考えられることなど、いくつかの状況証拠から総合的に考えて、これがモーツァルトの作品であると判断し、発表に至ったという。
若き日の作品の発見とともに、作品目録が整理されたことで、演奏家や愛好家にとっても、これまであまり知られていなかった作品との出会いが増え、モーツァルトへの理解が一層深まることになりそうだ。
Internationale Stiftung Mozarteum
https://mozarteum.at/wissenschaft