interview 横坂源(チェロ)
信頼するピアニストと行う、満を持してのリサイタル

©Sotaro Goto

 第一線で活躍を続けるチェリスト・横坂源が、11月に紀尾井ホールでリサイタルを行う。活動も25年に及ぶ彼をして、自ら企図した(自主)リサイタルを開くのは「今回が初」。それほど力が入っている公演だ。

 「信頼するピアニストの沼沢淑音さんと東京でリサイタルをしたいとの思いと、桐朋学園の高校時代から度々演奏してきたいわばホームである上に、一流の音楽家が大勢出演している紀尾井ホールでコンサートをしたいとの思い、この2つが相まって開く公演です」

 プログラムは、R.シュトラウス、シュニトケ、ラフマニノフの各ソナタが並ぶ分厚い内容。

 「小品等を入れずにソナタを3つ揃えることの良さを生かしたい、またその方が集中しやすいと考えました。R.シュトラウスとラフマニノフのソナタは沼沢さんと何度も演奏してきた曲なので、その成果、すなわち1つの集大成をこのホールで披露できればと。シュニトケのソナタは初のレパートリー。ここで新たな挑戦もしたいですし、ロマンティック過ぎない曲を1つ入れた方がバランスが良いだろうとの考えで選曲しました」

 つまり今回は沼沢との共演が大きなポイントだ。

 「彼は高校の同級生。卒業後は接点がなかったのですが、2015年に再会して以来、定期的に共演しています。一緒に弾くとエネルギーをもらえますし、とにかく響きが豊か。それはまるで往年の巨匠の世界です。レガートの奏法等も美しく、細やかさと豪快さを兼ね備えてもいます」

 なかでもラフマニノフのソナタには彼の存在が欠かせない。

 「沼沢さんは自身学んだロシアの音楽がとにかく素晴らしい。特に音の響きやイメージがラフマニノフに合っていて、彼から学ぶこともたくさんあります。しかもこの曲は再会直後、本番があるわけでもなく、最初に2人で音を出してみた実質的な出発点であり、共に育みながら深めてきた作品。ゆえに満を持しての思いで最初に選びました」

 各曲に関しても独自のイメージを持っている。

 「ラフマニノフのソナタは精神的に苦しんだ彼がピアノ協奏曲第2番で復活した直後に書いた作品。この曲にもそうした苦しみの時間や闇の部分が多くあります。でもそこに光が見える瞬間がとても美しく、そのコントラストが魅力です。R.シュトラウスのソナタは若い頃の作品ですが、彼が先天的に持つ華やかさや切れ味の良さがあると同時に、後期作品のような退廃的で崩れゆく部分がすでに備わっています。特に第2楽章はそう。シュニトケのソナタは前後の曲との対照が妙味。ただ初めてなので本番の表現にご期待ください」

 なお公演に合わせてR.シュトラウスとラフマニノフのソナタを収めたCDもリリースする予定。期する思いのこもったこのリサイタルが本当に楽しみだ。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2024年10月号より)

横坂 源 チェロ・リサイタル
2024.11/30(土)14:00 紀尾井ホール
問:カジモト・イープラス050-3185-6728
https://www.kajimotomusic.com