日本を代表するプリマドンナ佐藤美枝子が歌う4つの「狂乱の場」

 佐藤美枝子は今が「絶頂期」である。チャイコフスキー国際コンクール声楽部門で日本人として初めて優勝を飾ってから26年、名実ともに「日本を代表するプリマドンナ」である彼女に、この表現はいかがなものかと思われるかもしれないが、ここ数年のパフォーマンスを聴けば、佐藤美枝子は声、技術、表現、演技すべてがこれまでで最も高い次元で融合している「絶頂期」なのだと感じざるを得ない。

 そんな彼女のリサイタルが10月に開催される。タイトルは「狂乱 KYO-RAN 響蘭」。なんとベッリーニ《清教徒》《海賊》とドニゼッティ《ランメルモールのルチア》《アンナ・ボレーナ》の4つの「狂乱の場」を歌うのだという。「狂乱の場」のアリアとは、過酷な運命に見舞われたヒロインが正気を失った状態で歌うものだが、そこにはソプラノの技巧や高音の響きなどがこれでもかというほど盛り込まれている。つまり、ソプラノにとっては「声」という楽器を極限まで使って歌い上げることが求められる。1曲でも命懸けの「狂乱アリア」を4曲も歌おうとは、佐藤美枝子以外の一体誰が、こんなプログラムを考えつくだろう。

 この究極の企画をバックアップするのは、佐藤が「師匠」と語る演出家の岩田達宗と、今オペラのピアノを弾かせたらこの人の右に出るものはいない河原忠之のふたり。文字通りオペラに命を捧げてきた3人が描き出す4つの「狂乱の場」。単なるソプラノ・リサイタルではない、ものすごい舞台となるにちがいない。
文:室田尚子
(ぶらあぼ2024年10月号より)

狂乱 KYO-RAN 響蘭 佐藤美枝子 ソプラノ・リサイタル
2024.10/12(土)15:00 紀尾井ホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp