シャルル・リシャール=アムラン(ピアノ)

2人のアムランが織りなす唯一無二のピアノデュオ

©Elizabeth Delage

 2015年のショパンコンクールで第2位に入賞したシャルル・リシャール=アムランを知ったとき、「もしやあのマルク=アンドレ・アムランの息子?」と思った方は少なくないだろう。実のところ血縁関係はないというが(出身地・ケベックでこの苗字は珍しくないらしい)、来る9月、二人による2台ピアノ公演が神奈川県立音楽堂で実現する。

 「マルク=アンドレは超絶技巧作品の名手として1990年代半ばから注目されたので、89年生まれでピアノを習う僕は、彼の親戚かと聞かれ続けて育ちました。一方、9年前に僕がコンクールに入賞して以降、マルク=アンドレのほうも僕と親戚かと聞かれるようになったそうです(笑)。

 彼は最高峰のテクニックの持ち主であると同時に、優れたピアノの声と知性、洗練された音楽性を持ち合わせています。あるとき彼を紹介してもらえることになり、1時間くらいランチをしながら会うことになったのですが、気づいたら3、4時間も話し込んでいました!」

 “2人のアムラン”公演は、思いついたところで他人がやろうとは言い出しにくい企画に思えるが、実際、やりたいと提案したのはシャルルだそうだ。

 「僕も彼も幅広い音楽の影響を受け、ケベックの人特有のユーモアのセンスも共通していたので、すぐ打ち解けたのです。やがて、いつか共演できないかと提案したところ、喜んで受け入れてくれました。2022年にケベックの音楽祭でモーツァルトの2台ピアノのための協奏曲で共演し、これがうまくいったので、今度は2台ピアノ公演をすることになりました」

 モーツァルトの定番曲やグレインジャー「ガーシュウィンの歌劇《ポーギーとベス》による幻想曲」に加え、珍しいショパンやメトネルの2台ピアノ曲も取り上げる。“知られざる名曲好き”の彼ららしいプログラムだ。

 「ショパンは僕にとって大切な作曲家ですし、メトネルは聴くほど真の魅力に取り憑かれる名曲です。音楽の喜びは、娯楽として楽しむことだけでなく、新たな発見にもあると思うので、華やかでなじみやすい曲と初めて聴くような曲をバランスよく取り入れました」

 ソロでは感じられない「大スケールなステレオ効果」を存分に味わってほしいと話す。

 「20本の指で巨大なサウンドスケープが生まれるでしょう。ヴィルトゥオーゾ的な作品も多いですが、なにしろ名手マルク=アンドレと一緒なので何の不安もありません!」

 故郷カナダで好評を博す“2人のアムラン”企画が日本で聴ける、嬉しい機会だ。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2024年8月号より)

開館70周年記念/音楽堂ヘリテージ・コンサート
2人のアムラン デュオリサイタル
マルク=アンドレ・アムラン & シャルル・リシャール=アムラン
2024.9/14(土)15:00 神奈川県立音楽堂
問:チケットかながわ0570-015-415 
https://www.kanagawa-ongakudo.com

他公演 
2024.9/10(火) 福岡シンフォニーホール(092-725-9112)