欧州を席巻する新星がルーツの日本で初の凱旋公演
コロナ禍が明けたヨーロッパの室内楽界に、新たなスターが出現した。レオンコロ弦楽四重奏団である。
ほぼ2年間の非常事態で、多くの著名団体が活動停止やメンバー交代を迫られ、世界各地からメンバーが集まる研鑽途上の若手団体は存続も困難な事態に陥る。そんな中、たまたまメンバーの半数が家族だったレオンコロはベルリンに結集、師匠のギュンター・ピヒラー(元アルバン・ベルク四重奏団)からオンラインで指導を受け、アンサンブル鍛錬に没頭する。2021年、ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクールで最高位、翌年のロンドン、ボルドーと国際コンクールで前人未到の連勝。沈滞する欧州室内楽界における希望の新星は、20代半ばのプロ団体として音楽祭やホールを巡るツアーをスタートした。「2023年はほぼ90回。ちょっと多いけど、弾きたい曲がありすぎて飽きません(笑)」と笑う第1ヴァイオリンのヨナタン・昌貴・シュヴァルツの顔は、もうすっかりプロの室内楽奏者だ。
第1ヴァイオリンとチェロ(ルカス・実・シュヴァルツ)は母が日本人、ヴィオラの近衞麻由は近衞秀麿子爵の曾孫という日本色の濃いチーム、待望の初来日はボルドー国際弦楽四重奏コンクール優勝団体の世界ツアーで、同コンクールと提携関係にある大阪国際室内楽コンクールが関西公演も差配、連休始めの日本を駆け抜ける。
祖国で披露する演目にシューベルトの「死と乙女」ではなく、第9番 ト短調という珍しい作品を選んだのも、プロらしい熟慮故。「弾きたい曲で年間プログラムを作って、ピヒラー先生にご意見を伺いました。皆と同じ曲を弾かないように、と先生はいつも仰る。皆が知っている曲だと、別の弦楽四重奏団の演奏が好きと思う人もいる。『死と乙女』みたいに“弾けばスゴイ”という曲ではなく、決まった意見がない曲を自分たちで考えながら弾いた方が良い」と近衞。シュヴァルツも、「音楽の言葉遣いはすっかりシューベルトで、天才を感じさせる瞬間があちこちにあります」と賛同する。
勝負曲となるベートーヴェン「ラズモフスキー第1番」も明快な考えからの選択だ。本格的キャリアを始めた昨年はベートーヴェン後期の第13番 op.130をレパートリーにし、中期の「ラズモフスキー第3番」も何度も弾いたという。「今の自分たちのスタイルには中期が合っていると思います。名人芸的で技術的要求が高く、今までに弾いた中でもいちばん難しい作品のひとつですね」と意欲満々のシュヴァルツ。
オランダ生まれの近衞にとっては、祖父らの前で弾く初めての日本ツアー。真剣に演奏に集中する日本の室内楽愛好家を前に、「そういう皆さんが『レオンコロはこう弾くのか』と思ってくださるのがいちばん大事です」と近衞。
取材・文:渡辺 和
(ぶらあぼ2024年4月号より)
ボルドー国際弦楽四重奏コンクール2022優勝記念ツアー
レオンコロ弦楽四重奏団
2024.4/27(土)14:00 第一生命ホール
問:トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702
https://www.triton-arts.net
他公演
2024.4/26(金) 鶴見区民文化センター サルビアホール 音楽ホール(完売)
4/28(日) びわ湖ホール(小)(077-523-7136)
4/29(月・祝) 大阪/ザ・フェニックスホール(06-6363-7999)