明日開幕!藤原歌劇団創立80周年記念《ファルスタッフ》

 藤原歌劇団が1月24日(土)と25日(日)に上演するヴェルディ《ファルスタッフ》公演のゲネラルプローベ(総通し稽古)が会場の東京文化会館で行われた。24日のキャストのゲネプロを観た。
 《ファルスタッフ》は、オペラファンにとってはおなじみの名作だが、あまり接する機会がなかったファンの中には「名作という評価は知っているけど、有名アリアもあまり無いようだし、ハードル高いかな…」という向きもあるかもしれない。しかし、そんな方にこそ今回の上演はおすすめ。
 本作は昨年生誕450年を迎えたウィリアム・シェイクスピアの『ウィンザーの陽気な女房たち』が原作で、ヴェルディ作の26演目中2つしかない喜劇演目にして、最後のオペラ作品。シリアスな悲劇演目の数々で名声を築いたヴェルディが、80歳を目前に喜劇に挑戦して傑作を作り上げた。晩年の《オテロ》《ファルスタッフ》の2演目は、音楽と言葉が完璧な一致を見せて、もはやオペラ作曲において表現できないことはないかのような“自在”の境地に達している。なかでも《ファルスタッフ》では、ユーモラスだけど心に残るシェイクスピアのセリフとともに、小粋で気の利いた音楽が次々に展開。過去のヴェルディ自身の英雄的な音楽までパロディにしているかのようで、思わずニヤリとしてしまう場面の連続だ。また、登場人物は多いが、あらすじさえ把握すれば、音だけ聴いて予習するよりも直に舞台に接する方が楽しめるはず。

 今回の最大のポイントは、なんといっても“ロッシーニの神様”アルベルト・ゼッダの指揮。ロッシーニの権威的存在として知られるゼッダは、日本でも数々のロッシーニの名演で親しまれ尊敬されているが、今回はヴェルディ、しかも《ファルスタッフ》ということで注目を集めている。その期待に応えて元気に登場したゼッダは、87歳とは思えない生き生きした指揮ぶりを披露、繊細で練られた音色も東京フィルから引き出し、イタリア喜劇の粋を聴かせた。
 タイトルロールの巨漢ファルスタッフ(牧野正人)は音楽的にも視覚的にも(!)圧倒的な存在感。とはいえこの作品は、登場人物全員の精妙な掛け合いが要求されるアンサンブル・オペラ。それだけに「チーム藤原」のチーム力が存分に発揮されることになり、脇役まで隙がなく安心して楽しめる舞台となった。粟国淳による演出も、本誌1月号でのインタビューで「シェイクスピア時代の舞台のあり方を意識した」と語ったように、古典的な装いに工夫が凝らされたもの。各場の間に幕が下りず黒子がセットを作るなどの様式も、オペラでは逆に新鮮に映る。
 「世の中みんな冗談」というセリフによるフーガで締めくくられる《ファルスタッフ》。名匠のタクトで、ヴェルディが最後にたどりついた“笑い”の世界を大いに楽しみたい。
(取材・文:林昌英 photo:M.Terashi/TokyoMDE  *写真は1月24日(土)牧野正人組から)
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■オペラ《ファルスタッフ》(ヴェルディ)ニュープロダクション
2015年1月24日(土)、25日(日)両日15:00・東京文化会館
指揮:アルベルト・ゼッダ 
演出・粟國淳 

出演 
【1/24】
ファルスタッフ:牧野正人
フォード:堀内康雄
フェントン:小山陽二郎
アリーチェ:大貫裕子
ナンネッタ:光岡暁恵
メグ・ページ:向野由美子
クイックリー夫人:森山京子
カイウス:川久保博史
バルドルフォ:岡坂弘毅
ピストーラ:伊藤貴之

【1/25】
ファルスタッフ:折江忠道
フォード:森口賢二
フェントン:中井亮一
アリーチェ:佐藤亜希子
ナンネッタ:清水理恵
メグ・ページ:日向由子
クイックリー夫人:牧野真由美
カイウス:所谷直生
バルドルフォ:曽我雄一
ピストーラ:小田桐貴樹

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団 
合唱:藤原歌劇団合唱部

問 日本オペラ振興会044-959-5067
http://jof.or.jp/2015falstaff/
http://www.jof.or.jp