量子論や宇宙論の近年の発展や、想像を超えた地震の被害を目の当たりにすると、世界は私たちが五感で捉えているよりもずっと複雑で謎めいていると気づかされる。金子仁美というプリズムは、その不思議を鮮やかに音へと変換する。感覚を超えた何かを捉え、それを感覚へと取り戻すこと。「Nの二乗(自然・数)」では彼方の銀河のかすかな明滅までが描かれ、「レクイエム」では調和と破壊という相反が出現する。「分子の饗宴」では食の快楽を味蕾の化学反応へと分解し、「地球・生命」では邦楽器の生理を通じて水の分子構造を明らかにする。その音楽は、どれもとてもユニークな姿をしている。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2024年3月号より)
【information】
CD『Nの二乗(自然・数)〜金子仁美:管弦楽作品集/パスカル・ロフェ&N響』
金子仁美:Nの二乗(自然・数)、レクイエム、分子の饗宴、地球・生命 3Dモデルによる音楽VII
パスカル・ロフェ 沼尻竜典 板倉康明(以上指揮)
野平一郎(ピアノ)
NHK交響楽団
東京都交響楽団
現代邦楽“考”
収録:2007年7月、すみだトリフォニーホール 他(ライブ)
カメラータ・トウキョウ
CMCD-28386 ¥3080(税込)