英国ロイヤル・オペラ 2024年日本公演 《リゴレット》《トゥーランドット》

音楽監督として最後の日本ツアーは劇場が誇る名プロダクション

アントニオ・パッパーノ
Photo:SIM CANETTY-CLARKE / ROH

 指揮者アントニオ・パッパーノが、2024年6月に、英国ロイヤル・オペラ(ROH)の音楽監督としては最後の来日を果たすという。周知の通り、彼の次のポストはロンドン交響楽団の首席指揮者であり、マエストロが音楽界に果たす役割は今後も大きいに違いない。

 しかし、オペラ界にしてみれば、この巨匠が歌劇場の現場から少し遠くなるなんて有り得ない。ロイヤル・オペラとパッパーノが世に送った名演は多く、CDやDVDでもたくさん聴けるが、ROHの生の舞台に接する機会はこれが最後かと思うと、寂しさは否めない。それでも、大芸術家ならではの新境地を期待すべく、いまはただ、6月の来日公演で渾身のタクトを味わってみたい。

《リゴレット》
Photo:Helen Murray / ROH
左より:
エティエンヌ・デュピュイ/ネイディーン・シエラ/ハヴィエル・カマレナ

 今回、パッパーノが選んだ演目は2つ。まずは、オリヴァー・ミアーズ演出の《リゴレット》。クラシックなコスチュームにいきなりスーツ姿(恐らくは「人権を貴ぶ現代的な意識」を象徴)が混じるのが面白く、マントヴァ公爵が「女性と美術品の収集癖」を持つという設定も、公爵のサディスティックな性格の裏付けとして興味深い。配役は国際的で、40代半ばで脂の乗りきったカナダ人バリトン、エティエンヌ・デュピュイ(リゴレット)、素晴らしくしなやかな歌いぶりが特徴的な米国人ソプラノ、ネイディーン・シエラ(ジルダ)、明るい美声をびんびん響かせるメキシコ人テノール、ハヴィエル・カマレナ(公爵)と充実の顔ぶれ。作曲家ヴェルディの音作りを、パッパーノがいっそうドラマティックに運ぶさまに、今から期待大である。

《トゥーランドット》
Photo:Tristram Kenton / ROH
左より:
ソンドラ・ラドヴァノフスキー/ブライアン・ジェイド/マサバネ・セシリア・ラングワナシャ

 そしてもう一つは、アンドレイ・セルバンの名演出が光る《トゥーランドット》。2024年は作曲者プッチーニの没後100年でもあり、古代中国を舞台とするこの壮麗なオペラが、絢爛豪華なステージで観られるのは嬉しい限りである。今回、特に筆者が注目するのは、主演のソプラノ、ソンドラ・ラドヴァノフスキー(トゥーランドット)。心に切り込む強靭さを有しながら、柔和で細やかな歌い回しも見事にやってのける彼女の技量に、筆者は敬意を抱いている。以前、パッパーノが振った、彼女の《トゥーランドット》の全曲録音を解説した際など、氷の姫君そのもののフレージングを漏らさず聴き取るべく、楽譜が手離せなかったのだから。なればこそ、そのラドヴァノフスキーとパッパーノが実演で顔合わせするこの機会は、多くのオペラ・ファンの垂涎の的になるのでは? チケット争奪戦に敗れないよう心したい。

 そして、さらに注目すべきは、共演の新星たち。アメリカのブライアン・ジェイドは伸びやかな声を持つテノールで、王子カラフの名アリア〈誰も寝てはならぬ〉のクライマックスが楽しみである。そして、王子を愛する哀れな女奴隷リューは南アフリカのソプラノ、マサバネ・セシリア・ラングワナシャ。初めて聴いた時、地声が乙女的で愛らしいのに、歌声には大人びた品格があって驚いた。彼女の香気を想わせる柔らかな美声が、観客の心を掴み取る瞬間をぜひ目撃してみたい。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2024年2月号より)

《リゴレット》
2024.6/22(土)15:00 、6/25(火)13:00 神奈川県民ホール
6/28(金)18:30 、6/30(日)15:00 NHKホール
《トゥーランドット》
2024.6/23(日)15:00、6/26(水)18:30、6/29(土)15:00、7/2(火)15:00 東京文化会館


2演目セット券(S〜B席&サポーター席)
2024.1/26(金)発売
単独券(S〜E席&サポーター席)
2024.2/2(金)発売
※WEBチケット先行発売あり
問:NBSチケットセンター03-3791-8888 
https://www.nbs.or.jp
※公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。