第20回 イマジン七夕コンサート アンリ・バルダ ピアノ・リサイタル

「特別な熟成」を重ねた名匠のショパンを七夕に

©Jean-Baptiste Millot

 1941年にエジプトのカイロで生まれたフランス人ピアニスト、アンリ・バルダが2024年も日本にやってくる。7月7日、コンサートイマジン恒例のサントリーホール「七夕コンサート」はオーケストラと多彩なソリストの共演で知られるが、今回はあえてバルダの一人舞台とし、長く傾倒してきたショパンの至芸をたっぷりと味わう趣向。

  多くのピアニストと同じく、バルダもショパンをレパートリーの柱に据えてきた。1984年に録音したソナタ全3曲を収めたディスク(仏カリオペ)はショパンの母国、ポーランドでも国際的な賞を授かった。だが、バルダのユニークなショパン体験はアメリカ出身の振付家ジェローム・ロビンズ(1918〜98)と組み、10年以上にわたりパリ・オペラ座ガルニエ宮のバレエダンサーのための編曲と演奏に携わり、ツアーにも同行した部分にある。バルダのピアニズム自体、ガッチリした上半身の安定と鍵盤の上を自在に移動する手指の柔軟性を通じてピアノの金属臭が最小限に抑えられ、ごく自然な肌触りのエコロジカルな音の数々が生き物のようにうごめく。踊りとの相性も抜群のはずだ。

  2024年の「七夕コンサート」では第3楽章の「葬送行進曲」が有名なピアノ・ソナタ第2番のほか、「舟歌」「幻想曲」など優雅で深淵、時にロマンティックな波動のある名曲の数々を弾く。バルダが描くショパンのサロンは貴婦人たちの集いではなく、サティやコクトーらが出入りした裏通りのカフェ、一癖も二癖もある芸術家たちの溜まり場みたいな空間であり、私たちもその「妖しげな匂い」に魅了されずにはいられない。
文:池田卓夫
(ぶらあぼ2024年1月号より)

2024.7/7(日)14:00 サントリーホール
問:コンサートイマジン03-3235-3777 
http://www.concert.co.jp