オーボエとフォルテピアノで巡るシューマン夫妻の世界
日本が生んだ国際派のオーボエ奏者、吉井瑞穂。四半世紀を過ごしたドイツを離れて2017年に帰国後は、故郷の鎌倉を拠点にユニークな演奏活動を展開中だ。王子ホールを舞台とする「鎌倉 to 銀座」も5回目のステージを数える。
今回のパートナーは小倉貴久子(フォルテピアノ)。すでに吉井は去る6月、王子ホールで川口成彦のフォルテピアノとヴィデルケールのソナタを演奏している。モダン楽器のオーボエとピリオド仕様の鍵盤楽器で得られる響きの美しさに確信を得た上で臨むのは、ロベルト・シューマンとその妻クララの曲を巧みに並べたプログラムだ。
ロベルトのオーボエ作品といえば、1849年の12月に完成し、クララへのクリスマス・プレゼントとなった「3つのロマンス」が名高い。しかしあえて同曲は取り上げず、その上でシューマン夫妻の音楽的な“絆”に光をあてた演目構成が心憎い。
まずはロベルトが結婚の前日にクララへ捧げた歌曲集「ミルテの花」から〈献呈〉。そこに続くクララの「3つのロマンス」は1853年に書かれたヴァイオリン作品だが、同時期にはロベルトがヴァイオリン協奏曲の筆を進め、どちらもヨアヒムに捧げられたという背景がある。
フォルテピアノのソロで演奏されるロベルトの「子供の情景」からの抜粋と、クララの「音楽の夜会」から〈ノットゥルノ〉。それを取り囲むのがロベルトの「アダージョとアレグロ」と「幻想小曲集」(初期稿の題名が「夜曲集」)のオーボエ版。シューマン一家に囲まれたような音楽会の雰囲気に浸ってみたい。
文:木幡一誠
(ぶらあぼ2023年11月号より)
2023.12/22(金)13:30 王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990
https://www.ojihall.jp