田代万里生 『Mario Tashiro I am here ~Musical selection~』

豪華ゲストを迎えた、若き実力派のデビュー・アルバム

 『I am here ~Musical selection~』は、田代万里生にとって、初のソロアルバムだ。「“これが田代万里生です”という名刺のようなものができたと自負しています」
 ピアノ講師である母のもとで3歳からピアノを、テノール歌手の父のもとで15歳から本格的に声楽を学びはじめた田代は、東京芸大の声楽科在学中にオペラデビュー。2009年に『マルグリット』で鮮烈なミュージカルデビューを果たし、その後、数々の話題作に出演。ミュージカルデビュー5周年、30歳を迎えた節目の年を記念し、これまで演じてきた作品の楽曲を中心に、13曲を綴ったソロアルバムを作りあげた。
「5年間で出演した作品のハイライトに、演じたことのない役柄の楽曲やイタリア語の『メモリー』、シャンソンやクラシックなどを入れ、僕らしさを表現したつもりです」
 音づくりに関しても「実際に劇場でお芝居を観ているようなリアリティ感を出したい」と、ミュージカル特有の「音楽の揺れ」を重視した。鹿賀丈史、石丸幹二、濱田めぐみ、春野寿美礼、瀬奈じゅん、新納慎也など、ミュージカル界を代表する歌い手たちとのデュエットも豪華だ。
「デュエットでは僕のキャラクターもがらりと変わるので、さまざまな田代をお見せできていると思います」

全く違う表情の「グラナダ」

「僕のピアノの先生であり、僕のことを生まれる前から知っている(笑)、御邊典一先生に演奏していただいています。先生のアレンジはオリジナルよりずっと派手なのですが、僕は幼稚園の頃から先生のアレンジが大好きで、ぜひいつか歌わせていただきたいと思っていました」
 クラシカルな発声での表現も聴きどころだ。また、アルバムの中では、『ラブ・ネバー・ダイ』のファントムのナンバー『君の歌をもう一度』も収録されている。田代は同作にラウル役で出演しており、実際の舞台では歌っていない楽曲だ。
「まだファントムには若いと重々分かっているのですが、一曲くらいは背伸びをした曲を入れたいなと思ったのと、とてもいい曲なのでぜひ歌ってみたかったんです。実は順番的には最初のほうに録音したのですが、レコーディングを重ねていく中で、“もっと歌えるはずだ”と思い、後半に新たに録り直させてもらいました」
 このアルバムには、田代のこれまでの集大成であり、彼の新たな魅力はもちろん、未来への期待を存分に感じさせる。
「声楽を学んでいた大学生の頃は、早く大人になりたかったんです。オペラの世界では、40〜50代のキャストで上演されるのが普通。35歳くらいがやっとスタートだと考えていました。実際、この10年で音域もずいぶん変わりました」

ミュージカルとクラシックの架け橋に

 クラシックの世界に限ったことではない。ミュージカルの世界でも、これからは役が変わってくると思いますと語る田代。
「これまではいわゆる若者の役柄を演じることが多かったのですが、ラウル役をきっかけに大人の階段を上らなきゃなと(笑)。『マルグリット』でミュージカルデビューしたときは、自分の置かれた状況を全然理解していませんでした(笑)。これからミュージカルをやっていくという意識はまだなくて、今回、キャスティングされた芝居の形態がたまたまマイクを使うものだという認識でした」
 その後の5年間でさまざまなミュージカルに出演し、世界を広げていった。ミュージカルに出演することで、クラシックのステージに声がかかることも増えた。ヴォーカルグループ「ESCOLTA」の活動もある。それぞれ発声は違うが、ジャンルを限定するつもりはないという。
 今回のアルバムでも、「『ウーマン・イン・ホワイト』や『ラブ・ネバー・ダイ』の楽曲は、クラシックがお好きな方にも興味を持ってもらえるんじゃないかなと思っています」
取材・文:長谷川あや
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年12月号から)

CD『Mario Tashiro I am here ~Musical selection~』
※田代万里生ミュージカルデビュー5周年記念フォトブック付き
HRPR‐1005 ¥3,780+税
田代万里生公式ウェブサイト http://tashiromario.jp