幅広いレパートリーを誇り、現代音楽の演奏でも高い評価を受けているピアニストの長尾洋史。アンサンブル奏者としても多くの演奏家から厚い信頼を集める。そんな彼の精巧なピアニズムによって紡ぎ出される音楽の世界は、非常に雄弁である。本盤は2020年からリリースされている「ピアニズム・シリーズ」の第5弾。長尾の奏でる透明感のある音色の美しさ、ニュアンスの多彩さが際立つ内容となっている。2つの技巧的なソナタにおけるテクニックにはやはり圧倒的なものがあるが、特筆すべきはロンド イ短調(K.511)であろう。曲に漂う哀しみが様々に変化しながら奏でられ、心を鷲掴みにされてしまう。
文:長井進之介
(ぶらあぼ2023年11月号より)
【information】
CD『ピアニズム5 モーツァルト:ピアノ作品集/長尾洋史』
モーツァルト:ピアノ・ソナタ K.494/533,K.457、ロンド K.511,K.485、幻想曲 K.475
長尾洋史(ピアノ)
録音研究室(レック・ラボ)
NIKU-9054 ¥3080(税込)