CLASSICAL MUSIC COLLECTION JAPAN Vol.1
ミシェル・ダルベルト&鈴木隆太郎 ピアノ・デュオ・リサイタル

日本の「美」と国際的に活躍するアーティストの音楽が織りなす極上の体験

文:飯田有抄

 日本が誇る豊かな自然、古き佳き建築物、そして繊細な味覚を呼び覚ます和の食材。五感を刺激する日本ならではの「美」の世界を、クラシック音楽の魅力と結びつけて堪能しようとする新しいプロジェクトが始まる。それが東京都や東京観光財団、観光庁等の支援を受け、EXA INNOVATION STUDIOが主催する「CLASSICAL MUSIC COLLECTION JAPAN」だ。

 日本国内の音楽ファンはもちろんのこと、外国に暮らす人々にも向けて企画されたこのプロジェクトは、日本の歴史や文化を感じさせるスポットや、世界に誇る音響を持つ音楽ホールを会場としてクラシック音楽のコンサートを開催し、音楽と日本のカルチャーとの美しいマリアージュを体感してもらうことを狙いとしている。海外からの訪問者には、音楽とともに日本の魅力を知り堪能してもらうべく、5日間にわたる日本滞在ツアーが組まれる。その旅程には、古都・鎌倉の覚園寺におけるプライベート・コンサートや、日本の魚介類や野菜など旬の味覚を楽しむ会食といった催しが盛り込まれており、日本を“発見”できる大人旅が企画されている。その記念すべき初回の旅「Vol.1」が、10月23日から27日に予定されている。外国の方々に、芸術や文化や歴史に対する日本の姿勢を感じ取ってもらえる内容だ。

 この企画の音楽イベントの中心となるのが、10月26日に開催される夜のコンサートである。会場は、各国のアーティストや聴衆から愛され続ける音楽ホール、浜離宮朝日ホールだ。銀座からもほど近いこのホールで行われる本公演は、海外客だけでなく、日本の聴衆にも開かれたコンサートである。日本のホールの音響や聴衆のマナーの良さは、海外のコンサートホールや聴衆に比べ、世界的にも定評があるのをご存知だろうか。静まり返ったホールで、誰もが極上の響きに集中して耳を澄ます——そうした光景もまた、日本ならではの文化体験と言えるのかもしれない。この日の客席は国際的な雰囲気の漂う、特別な空間となりそうだ。

ミシェル・ダルベルト (c)Jean-Philippe Raibaud

 このコンサートに出演するのは、フランスが誇る気品あふれるピアニストのミシェル・ダルベルト、そしてパリ音楽院で研鑽を積み、ダルベルトのもとでもピアノを学んだ鈴木隆太郎である。ダルベルトは、2006年にNHKで放映されたテレビ番組「スーパーピアノレッスン」の講師として記憶に残っている方も多いだろう。またラ・フォル・ジュルネ音楽祭などにも多数出演し、多くの聴衆を魅了してきた。ドイツ・ロマン派のピアノ・レパートリーのほか、近年ではドビュッシーやラヴェル、フォーレといった芳しいフランス音楽にも熱意を注ぐ彼の音楽は、エレガントでエスプリに満ちている。鈴木隆太郎は鎌倉生まれのピアニストで、数々の国際コンクールで優勝・上位入賞を果たし、現在もパリを拠点に演奏活動を行っている。国内外のオーケストラとの共演経験も多く、リリースされたアルバムはイギリスやフランスの音楽誌で高く評価されている。

 この日のプログラムは、そんな師弟関係にある二人のアンサンブルによって組まれている。2台ピアノおよび4手連弾作品のみで構成したコンサートというのは、ダルベルトにとって初の試みだという。幕開けは、2台ピアノ作品として人気の高いモーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ ニ長調」。二人のピアニストの溌剌とした掛け合いが聴きどころで、古典派音楽の快活な響きが楽しい作品だ。一方で、向かい合って座る2台ピアノの距離(とくに現代のフルコンサート・グランドピアノは二人の距離が遠くなる)からすると、ある種ごまかしのきかないモーツァルトのすっきりとしたテクスチュアを息ピッタリに響かせるのが難しい作品だ。ダルベルトと鈴木はこのソナタをスリリングかつ魅力たっぷりに聴かせてくれることだろう。

鈴木隆太郎 (c)Marc Lacouture

 続く3作は連弾曲である。19世紀のヨーロッパでは爆発的に連弾がブームとなり、家族や友人同士、または師弟関係など、互いによく知る間柄で楽しく演奏するための連弾曲が星の数ほど出版された。そうした中で、現代まで弾き続けられ、コンサートでも演奏されるほどの芸術性を持った作品というのは実はさほど多くはない。シューベルトによる「幻想曲」は、まさに芸術性の高い1曲である。シリアスかつ歌心に満ちたこの曲は、連弾曲の中でも広く愛されてきた傑作だ。続いて取り上げられる連弾曲は、二人の得意とするフランス作品から、ラヴェルの組曲「マ・メール・ロワ」、そしてフォーレの組曲「ドリー」である。どちらも作曲家たちが愛らしい子どもの世界を音にしたメルヘンチックでチャーミングな作品だ。二人の音色がどんな物語を聴かせてくれるのか、期待が膨らむ。

 コンサートの締めくくりは、ドビュッシーによるオーケストラ作品「海」の2台ピアノ用編曲バージョンである。大海原にさす太陽の光、風、波のざわめきなどを多様な楽器で描いた大曲を、2台のピアノでいかに壮大に聴かせてくれるのか。ダルベルトと鈴木が織りなす多彩な響きにじっくりと耳を傾けたい。

【Information】
CLASSICAL MUSIC COLLECTION JAPAN Vol.1
ミシェル・ダルベルト & 鈴木隆太郎 ピアノ・デュオ・リサイタル

2023.10/26(木)19:00 浜離宮朝日ホール

〈曲目〉
モーツァルト:2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448 (2台ピアノ)
シューベルト:幻想曲 ヘ短調 op.103 D.940 (4手連弾)
ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」 (4手連弾)
フォーレ:組曲「ドリー」 op.56 (4手連弾)
ドビュッシー(カプレ編):交響詩「海」 (2台ピアノ)

問:パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831
http://www.pacific-concert.co.jp