イタリアを代表する劇場の一つ、ローマ歌劇場の5年ぶりとなる日本公演が9月13日より、東京と横浜で開催される。開幕を目前に控えた9月11日、音楽監督・指揮者のミケーレ・マリオッティのほか、《椿姫》ヴィオレッタ役のリセット・オロペサ、《トスカ》題名役のソニア・ヨンチェヴァ、カヴァラドッシ役のヴィットリオ・グリゴーロらが登壇し、都内で会見を行った。
今回の日本公演は、パンデミック後初の大規模なツアーとなる。演目には、2018年の来日時も好評を博した《椿姫》(ソフィア・コッポラ演出)、同歌劇場が2008年の初演以来15年ぶりに上演する《トスカ》(フランコ・ゼッフィレッリ演出)と、イタリア・オペラの代表作であり、ローマ歌劇場が誇る名プロダクションが並ぶ。
フランチェスコ・ジャンブローネ総裁も「コロナ禍を乗り越えて、日本公演が実現できることが非常に嬉しい。私たちにとっても愛着のある2演目。音楽面ではマリオッティを迎え、世界で活躍している最高の歌手たちを揃えました。イタリアの偉大なアーティスト(《椿姫》の衣裳を担当したヴァレンティノ・ガラヴァーニ、《トスカ》演出・美術のゼッフィレッリ)が参加する、イタリア芸術を紹介する上で非常に自信をもってお贈りできる作品」と力が入る。
音楽監督のミケーレ・マリオッティは、《トスカ》と《椿姫》をいま上演する意味について語る。
「私は歌手たちにいろいろと要求してしまうのですが、一緒に創り上げていこうと努力してくれる素晴らしい歌手たちと仕事ができることを心から嬉しく思います。
《椿姫》と《トスカ》は非常に有名な作品で、とても美しいオペラです。傑作はいつ聴いても新しいものに感じられ、毎回が初演のような気持ちで、稽古する度に発見があります。2023年のいま、新しい気持ちでどう楽譜を読むか、そこに何か意味があるのではと考えています。
両作品は女性に対する攻撃的な内容が題材となっている作品です。《トスカ》の場合は第2幕、スカルピアの強い権力が女性を支配する物語として描かれています。トスカはその後それに対抗して殺人を犯しますが、殺すという行為にどういう意味があるか、この場合の真実というものに深く考えさせられます。
一方《椿姫》は、ヴィオレッタが社会的な犠牲者として描かれています。ヴィオレッタはものすごく強い性格の女性だと感じていますが、なぜジェルモンの言うことを聞き入れてアルフレードを諦めるのか。彼女自身が病におかされ命が短いことを知り身を引くことで、彼に新しいファミリー、そこから生まれてくる新しい命を選んだのではないでしょうか」
マエストロの作品に対する解釈から、オロペサも自身の作品への想い、ヴィオレッタについて語り始めた。
「二つのオペラに共通することは、二人の女性が、巨大な力、社会、ひとりの人間の犠牲者であったということです。トスカはひとりの悪者、ヴィオレッタは社会がその敵です。そして、次の瞬間、彼女たちは自分がしたことに対して、天に、神にゆるしを求めます。
ヴィオレッタと神との関係は複雑です。常に罪人として生きていて、償いをしようと懸命ですが救ってもらえない。それは病と社会の犠牲になるという形で表れてしまいます。
《椿姫》は愛が報われない悲劇の物語ですが、音楽は非常に美しい。《椿姫》でみえる苦しみ、苦闘はどの時代にも共通しており、その複雑さがこのオペラを説得力のあるものにします。この役は大きな挑戦で、歌う度に発見があります。マエストロの解釈で歌うことがなによりも幸せです」
ソニア・ヨンチェヴァは、十八番のトスカで日本でのオペラ・デビューを飾る。
「2022年の来日コンサートでは聴衆の皆さんに温かく迎えていただき、とても素敵な想い出ができました。日本でオペラ全幕ものを歌うのは初めてで、またローマ歌劇場にも初参加です。素晴らしい装置、衣裳、歌手の方々、そして何と言ってもマエストロの指揮で、イタリアを象徴するレパートリー、フランコ・ゼッフィレッリの素晴らしい演出に参加できることが嬉しいです。
何度も歌ってきたトスカ。彼女は無邪気で情熱的、マリオへの大きな愛を抱いています。《椿姫》同様、この《トスカ》も大きな愛と情熱、そして神との関わりが描かれたオペラですが、若い世代の方々にも考えていただきたい作品であることを伝えたいです。まさにイタリアの真髄に私も参加できて嬉しいです」
数々の作品で日本の聴衆を魅了してきたヴィットリオ・グリゴーロにとって、《トスカ》は特別と語る。
「《トスカ》は私にとって宝物です。幼い時はこのオペラのなかで宝探しをしていました。そして1990年、パバロッティ主演の《トスカ》の舞台に出演(牧童役)し、その後、カヴァラドッシを初めて歌ったときにはソニアさんと一緒の舞台でした。
《トスカ》は私にとって大切な想い出、夢、挑戦、あらゆることを意味します。歌う場所、相手役、演出家、マエストロなどが変われば、決して同じ《トスカ》にはなりません。私自身も昨日の私とは違うわけですから、いろんな経験を重ねてカヴァラドッシが生まれます。
いまの若い歌手たちはテクニックばかり気にして、言葉の意味を理解しないで歌っていると感じます。オペラは『歌いながら演技する』ものです。音楽に言葉をのせて、そこに演技をするのですから非常に難しいことです。偉大な指揮者、歌手が一緒になってお互いに理解し合って表現できた時は素晴らしい舞台になると思います。
芸術においても大切なのは人と人とのつながり。現代人はメールや携帯に頼ってしまって、つながりを見失っているのかも知れません。我々の舞台を通して、触れるような、香りを嗅ぐような『生きた感覚、感触のオペラ』をお届けしたいと思っています」
登壇者のそれぞれの熱き想いが舞台へと結実する、その期待と高揚感を感じられた記者会見。新音楽監督ミケーレ・マリオッティと臨みうる最高のキャストで創られる舞台がまもなく開幕する。
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《Information》
ローマ歌劇場日本公演
《椿姫》
2023.9/13(水)、9/16(土)、 9/18(月・祝)各日15:00 東京文化会館
演出:ソフィア・コッポラ
衣裳:ヴァレンティノ・ガラヴァーニ
指揮:ミケーレ・マリオッティ
出演:リセット・オロペサ(ヴィオレッタ)、フランチェスコ・メーリ(アルフレード)、アマルトゥブシン・エンクバート(ジェルモン) 他
《トスカ》
9/17(日)15:00 神奈川県民ホール
9/21(木)、9/24(日)、9/26(火)各日15:00 東京文化会館
演出・美術:フランコ・ゼッフィレッリ
指揮:ミケーレ・マリオッティ
出演:ソニア・ヨンチェヴァ(トスカ)、ヴィットリオ・グリゴーロ(カヴァラドッシ)、ロマン・ブルデンコ(スカルピア) 他
問:NBSチケットセンター03-3791-8888
https://www.nbs.or.jp