リチャード・トネッティ(ヴァイオリン/オーストラリア室内管弦楽団芸術監督)

尽きることない好奇心から生み出される鮮烈な響き

(c)Ben Sullivan

 7月に来日して、紀尾井ホール室内管弦楽団(KCO)を弾き振りしたオーストラリアのヴァイオリン奏者リチャード・トネッティ。そのKCOの前日、手兵オーストラリア室内管弦楽団(ACO)との再来日(10月)について聞いた。

 秋の公演は、ベートーヴェンとヤナーチェクの2つの「クロイツェル」を並べたクロイツェル・プロ。そこにヤナーチェク門下のパヴェル・ハースの弦楽四重奏曲第2番を挟み、ヤナーチェク色が強調される。全曲がトネッティ編曲の弦楽合奏版だ。

 「ベートーヴェンは、生きていれば昨年100歳になったイヴリー・ギトリスのお祝い。1999年にACOが彼と共演するために編曲したのです。かなり挑発的なアレンジだと思いますよ。もともとベートーヴェンの原曲がエキセントリックでワイルドな曲ですからね。イヴリーにぴったりでした。

 ヤナーチェクは、1990年に私が音楽監督に就任して最初に編曲した作品のひとつです。ソロと総奏のコントラストを多用していて、それによって弦楽四重奏の親密さも表現できたと思います」

 ACOは立って弾く。30年以上前からいち早く立奏スタイルを取り入れている。

 「座ったらもっと上手く弾けるとは限らないでしょう?(笑) 最大のメリットは、互いのコミュニケーションがとりやすく、いきいきとした演奏になること。そのみずみずしい生命力がACOの特質になっています。
 私たちには、古楽から現代音楽まで、ハイブリッドな音楽作りのパイオニアとしての自負があります。それができたのは、ACOが尽きることのない好奇心を持ち続けているからなのです」

 何度も来日している日本通。数年前までは、北海道のニセコの冬の音楽祭にも連続出演。ニセコは一時期、オーストラリア人スキー客が大挙して訪れることで有名だった。

 「オーストラリア人が来ていなかった頃のニセコを知っている日本人には嫉妬します(笑)。グローバルになって“ダサさ”がなくなってしまった。妙高や八甲田には、まだオーセンティックな日本らしさがありますね」

 取材翌日のKCOとの共演はじつにエキサイティングだった。この日はKCOも立奏。もう何度も聴いているハイドン「ロンドン」やモーツァルト「ジュピター」でこんなにワクワクするとは! 経験豊富なメンバーたちがじつに楽しそうに弾いていたのも印象的だった。盛大な拍手。客席の全員が秋のACOへの期待を何倍にも膨らませたはずだ。待ち遠しい!
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2023年9月号より)

リチャード・トネッティ&オーストラリア室内管弦楽団
2023.10/10(火)19:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールウェブチケット webticket@kioi-hall.or.jp 
https://kioihall.jp