【CD】虚空はるかに 平澤仁ヴァイオリン・リサイタル

 20年以上東京フィルのコンマスを務めた平澤仁が2000年にリリースしたアルバムの再発。ドヴォルザーク「4つのロマンティックな小品」、ブラームスのソナタ第1番は抒情性に焦点を当てながらすっきりとまとめる。心地よい残響感が四半世紀近く前のこの録音にセピア色の時の衣を纏わせているようだ。一方、平澤の確かなテクニックはヒナステラ「パンペアーナ」の民俗的バーバリズムで十全に発揮されている。激しさの中に冷静な計算が隠れ、狙いを過たずに射貫く。最後はスヴェンセン「ロマンス」でしっとりと閉じた。アーティストの個性や主張が、じわりと伝わってくる選曲・演奏だ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2023年9月号より)

【information】
CD『虚空はるかに 平澤仁ヴァイオリン・リサイタル』

ドヴォルザーク:4つのロマンティックな小品/ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番/ヒナステラ:パンペアーナ第1番/スヴェンセン:ロマンス

平澤仁(ヴァイオリン)
長尾洋史(ピアノ)

ナミ・レコード
WWCC-7985 ¥2750(税込)