トーンハレ管と2019年より音楽監督を務めるパーヴォの近況が届いた。聴き始めてすぐに引きずりこまれた。弦がいい音を出している。シルキーで滑らかな肌触りを持ち、蠱惑的な曲線美を描く。ほの暗い陰影感が曲のパセティックな性格を引き出し、深い呼吸を作っていく。快速で元気なスケルツォに続くアダージョにまたコクがあり、間髪あけずにフィナーレに流れ込む。パーヴォは明快で曇りのない音楽作りをするが、ブルックナーに欠かせない粘り気や波動のようなものをオケが補い、密度の濃い演奏に仕上がった。キレがありながらよく歌うバランスの取れた演奏で、いいコラボレーションのようだ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2023年9月号より)
【information】
CD『ブルックナー:交響曲第8番/パーヴォ・ヤルヴィ&チューリヒ・トーンハレ管』
ブルックナー:交響曲第8番(ノーヴァク版 第2稿)
パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)
チューリヒ・トーンハレ管弦楽団
ALPHA/ナクソス・ジャパン
NYCX-10409 ¥3300(税込)