コンクール優勝のお披露目はロマン派の名曲で
よこすか芸術劇場において4月に行われた『第5回 野島稔・よこすかピアノコンクール』。74名のコンテスタントの頂点に輝いた野上真梨子が同劇場で優勝記念公演を行う。
「コンクールではステージに立った瞬間、ホールの広さや天井の高さに息をのみました。客席の隅々まで音を響かせられるか不安もありましたが、残響がとても豊かで、音の消え行く瞬間がとても美しい空間でした。あのホールで再び演奏会ができるなんて幸せです」と瞳を輝かせる。
審査委員長の野島からは、「安定感と共に、一種心地よい緊張感をはらみつつ持続する」と演奏を評価された。現在、桐朋学園大学研究科1年に在学する彼女は、幼い頃より国内外のコンクールで輝かしい成績をおさめ、昨今では師・高橋多佳子との共演でも注目を集めつつある。
「コンクールは練習だけでは得られないものが多く、つねにステップアップの目標として受けてきました。私は比較的手が大きいので、音数の多くパワフルなロマン派の作品を得意としています。コンクールの本選はリストの『スペイン狂詩曲』やスクリャービンのソナタ第5番で臨みました」
今回のプログラムはショパンとシューマンという同年生まれの作曲家に焦点を当てる。
「ショパンは小さな頃から弾き続けてきた作曲家です。最初に置いたノクターン第8番は大好きな一曲。響きが奇麗に聞こえる作品なので、あの大劇場でどう響かせられるか楽しみですね。スケルツォは2番も3番も名曲ですが、性格がまったく違います。3番はコンパクトで親しみやすい曲です。前半を締め括るのはやはり『英雄』ポロネーズかな、と。非常に男性的な曲ですね」
後半はシューマンの大曲「交響的練習曲」を披露する。
「主題と12の練習曲、さらに『遺作』も含めた長大なバージョンで演奏します。技術的には高度ですが、最初の鬱々とした感じから華やかなフィナーレに向かうまでのプロセスが素晴らしい曲です。これまであまり弾く機会のなかったシューマンの音楽は精神的に理解しがたい部分もありましたが、弾き込んで行くうちに感情移入できるようになりました。作曲家によって独特の書法がありますが、シューマンも徐々に自分にフィットしてきたと感じます。一つのテーマで全体をまとめあげる変奏曲形式なので、初めて聴かれる方も楽しめると思います」
アンサンブルの現場や、音楽家仲間と過ごす時間が何より楽しいと語る野上。エネルギッシュに輝く俊英のステージに期待したい。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年11月号から)
11/23(日・祝)14:00 よこすか芸術劇場
問:横須賀芸術劇場046-823-9999
http://www.yokosuka-arts.or.jp