中村紘子(ピアノ)

円熟のピアニズム

©Hiroshi Takaoka
©Hiroshi Takaoka

 今年デビュー55周年を迎えた中村紘子。日本のピアノ界の活性化や若手音楽家の育成にも力を尽くし、そのうえで変わることのない情熱をピアノ演奏に注ぐ。長い年月にわたってピアニストとして常に第一線で輝き続ける背景には、才能に加えて、想像をはるかに超える努力があるのだろう。
 55周年の今年も、東京交響楽団との35年連続となるニューイヤーコンサートでの共演を皮切りに、全国各地で数々の記念公演を行っている。その演目が何種類もあることにまず驚かずにいられないが、いずれの公演でも、中村紘子その人が持つ圧倒的な輝き、ダイナミックで華やかな品格あふれるピアノで、聴衆に非日常の時間を届けている。
 11月23日、東京、サントリーホールで行われる公演では、ロマン派音楽に向かう先駆けから最盛の、ピアノ音楽の粋を掬い取るようなプログラムを披露する。
 ベートーヴェンからは、最晩年のソナタより第31番を取り上げる。天国に向かうような美しさと力強さを持つこの作品を、今の中村紘子のピアノがどんな表現で聴かせてくれるのだろうか。そして、シューマンの幻想曲、シューベルトの4つの即興曲D899に加えて、ショパンのポロネーズという得意のレパートリーを演奏する。
 今、円熟を迎えた作品への解釈と想いを、サントリーホールいっぱいに響かせてくれることだろう。時間をかけて育て上げられた豊かな音楽の実りを、喜ばしく享受する祝日の午後になりそうだ。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年11月号から)

11/23(日・祝)14:30 サントリーホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 
http://www.japanarts.co.jp